第8話 低級魔族

魔族は人に擬態する。それは前の世界の常識だ。そして擬態した魔族を倒すと変態メタモルフォーゼするのだ。まぁ見ていて気持ちいいものじゃなくゴキゴキと気持ち悪い音がするし見た目も最悪。なので余程余裕が無い場合変態メタモルフォーゼを待たずに魔法陣の中にぶち込み焼き殺したり、変態メタモルフォーゼ中の体を氷の魔法で固めたりまぁ変態メタモルフォーゼを必ずしも待ってあげる必要性は無いという事だ。


しかし本来ならばそんな事をしては戦隊ヒーローや特撮ヒーローに申し訳が立たないのも事実。セシリアは知らず知らずのうちに子供たちを味方に付ける戦い方をしているのは言うまでもない。


ちなみに低級魔族なんて魔王の爪の垢より弱い。まぁ所謂雑魚だ。そんな雑魚のお着替えタイムを待ってやるのも勇者としての余裕とでも言っておこう。


「ふん。私に勝てるとでも思ってるのかしら……《魔法発動──爆炎凝縮砲ファイアトマホーク》」


──警告。MP《マジックポイント》が不足しています。──


「え?MP《マジックポイント》が不足?私…今日魔法使ってないんだけど…おかしいな…?」


はて?魔法使ってないはず。それなのにMPが無い?あ……もしかしてここって魔界なの?魔界に旅行に来ちゃった感じ?でも…そんな事は……あるかもしれないの?うーん……まだ現時点で判断は難しいかもね……まぁいいわ。あんな雑魚。魔法を使う必要も無いから。


「キキキキッ!シ、シ、シ、シネェ!」


魔族は爪を50センチ程に伸ばし目にも止まらぬ早さで切りつけてくる。とは言え、私にとっては欠伸が出るほど遅く感じる。


そうね──あれはメタルドラゴンとの戦闘の時だったかしら。元々巨大なドラゴンが俊敏性と防御を兼ね備えた厄介な魔物。あの時ばかりは死ぬかと思ったわね。




「パメラ!貴女の剣は効かないわ!」


「私は剣豪よ!こんな魔物なんて一刀両断……きゃあっ!?」


ほら言わんことない。私言ったよね?私と大して剣筋が違わない貴女が私の切れなかった魔物を一刀両断にするとか。無理だから。調子にのんな。


「ルシウス!貴方は炎と氷の合成魔法を使って!マックスは氣を練って!一点集中で狙うは中央の核。あとのみんなは陽動するわよ!私に続けぇぇぇぇ!」


メタルドラゴンは羽虫を相手にするように面倒くさそうだった。近寄る私たちを腕で、尾で、翼で攻撃兼防御する。


そしてメタルドラゴンの喉が大きく膨らむ。


──不味い……あれはブレス!?


私は縮地を使いメタルドラゴンに接近。そしてメタルドラゴンの真下に着くと、聖剣レシテンザで顎を下から切り上げた。


ブレスを吐こうとしていたメタルドラゴンは自身の体の内部にブレスを飲み込んでしまい、藻掻き苦しんだ。


グゥオオオオオオオオオオオオーーー!


怒り狂ったメタルドラゴンは先程までの余裕が無くなり当たり構わず攻撃してきた。体内にあるのか溶解液を吐いて私たちを溶かそうとしたり、翼を丸め槍のように尖らせ突き刺してきた。その全てがメタル《魔鉄》での攻撃だ。体内に入るだけで致死する魔素毒を含んでいる。


「はぁはぁはぁ……そろそろ準備は出来た?」


「いぇあ!僕いつでも準備OKさぁ!」


金色長髪のサラサラヘアーのチャラ男。それがルシウスだ。しかし世界最強と名高い魔術師アリストレスの1番弟子である彼の実力もまた超一流。全属性の魔法を無詠唱で使え、MP《マジックポイント》も無尽蔵。でも……如何せん頭が悪い事が玉に瑕なのよね。だって……見て?あのセンスのない服装を。普通の魔術師ならローブとか杖とか装備するのが普通でしょ?なのにアイツはなんで全く防御効果を無視したペラペラの白いシャツと呼ばれる服1枚と少しダボッとしたシルク素材のズボンを履いている。アイツは此処魔界に何しに来てるの?阿呆なの?と毎回思っていたがもう諦めた。アイツの頭の中は理解不能だ。そして杖もないわ。あの見てくれのみの杖。あれって使う意味あるの?10センチ程のミスリル製の杖だ。ゴテゴテの装飾がある訳では無いのが救いだが「これが僕のスタイルなのだよ。」とか言っていちいち癇に障る奴なのだ。


「アタイも大丈夫よぉ~いっつでもいけるわぁ~せっしぃ~ちゃあん~✩」


この気持ち悪い喋り方をするのが我らの汚点武闘家マックスだ。筋骨隆々の偉丈夫で身長は私の2倍。3メートル近くある。まぁ所謂マッスルボディのオカマちゃんなのだ。まあ気持ち悪い。オカマになる気があるのかなんなのかも不明な容姿をした化け物だ。頭は中央を括り2つの大きな三つ編みを後ろにダランとたらす。ピンクのリボンがチャームポイントらしい。かなりキモい。そしてちょび髭にもみ上げが繋がった変な髭をしている。私はこのオカマちゃんが何がしたいのか謎であった。可愛くありたいならドレスとか……オエッ。まぁ着てるけど。お化粧とか……オェェェェ……。してるけど。でもね?……彼女?彼?はあの怪力で有名な魔猛大猩々ゴリラに育てられた稀な存在なの。規格外の剛力で相手をねじ伏せる彼の技は圧巻よ。あの性格さえなければ……汚点と呼ばれることも無いのに。それでも彼は女装?を止める気配はないの。「これがアタイのポリシーなのよぉ~☆」とかえって喜んでいるのだ。


「じゃあお願い!マックス!ルシウス!頼んだわ!」


「「は~い!」」


何とも気の抜けた声で返事する2人。だが彼らは確かな技と力を持ち、セシリアが言った事を忠実に実行出来る能力を持つ存在。


──だから彼らに命を預けられるのだ。


「《獄炎》と《絶対零度》だ!食らえ!」


「いっくわよぉ~~!魔猛流奥義 《点穴》」


メタルドラゴンの核にはルシウスの左右の手から繰り返し注がれる魔法。熱と急激な冷却により熱疲労破壊が発生。メタルドラゴンの体が一部分のみだが脆くなった。


そしてマックスの《点穴》。1点のみに絞ったその攻撃は通常攻撃の凡そ5倍の力がかかる。脆くなった核を打ち砕くには充分な攻撃だ。


「どう!?やった?」


固唾を呑んで見守る私たち。最早誰もこれ以上戦う力は残っていなかった。


すると点穴を受けたメタルドラゴンの体躯は時間差で核を中心に黄色く亀裂が入り粉々に砕け散った。


「ああ……良かった……」


セシリアは胸を撫で下ろした。


その時のメタルドラゴンの驚異と比べると目の前にいる魔族はなんと弱そうなのだろう。雑魚も雑魚。くそ雑魚だ。


「絶剣──乱」


50センチに伸びた爪を深爪程に細かく切断し、更に全ての指が空を舞う。


「ギギャーーー!ギギャ!」


吹き出る緑の血液に顔を顰めるが絶剣──乱を発動してしまったが最後。魔族に生きるすべは無い。絶剣の太刀筋が乱れ咲いて魔族は息絶えた。


「ふん……私に歯向かうからよ。いい気味だわ。でも何故かしら?MP《マジックポイント》が足りないなんて……ちょっと調べてみる価値はありそうね。」


セシリアは魔族の血液で汚れた聖剣レシテンザをビュンっと一振すると納刀し、靖国神社の奥へと歩を進めるのだった。

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