第6話 齋藤賢一とスカイツリー

僕は夢を見たのだろうか──


おじいちゃんに連れられて嫌々ながらもスカイツリーの展望台に来た少年。


彼は《齋藤賢一》10歳。明斗小学校4年2組に通う正真正銘の小学生だ。


長らく切られていない髪はボサボサで顔を窺い知ることは出来ない。髪の間から覗く双眸は赤く学校でも《吸血鬼》と気味悪がられていた。


小学校は激しい虐めにより登校拒否していた。自宅から外に出歩くこともほぼ無く食も細い。故にガリガリで色白だった。《吸血鬼》と罵られても仕方がないと自らも思うほどだった。


しかし今日はおじいちゃんに誘われて嫌々ながらもスカイツリーに来たのた。


スカイツリーの入口で入ると同時に綺麗なお姉さんから「いらっしゃいませ~」と言われ顔を赤らめたが顔を上げ僕の顔を見ると「ひぃ…」と悲鳴を混じらせていた。意外とこう言う事が心にグサグサ来るんだよなーと思っていた。でもいざ展望台に上がってみるとその景色に魅了された。1時間でも2時間でも飽きずに見ていられる。そんな感じだった。


展望台をグルりと回って一通り景色を堪能した時気になるものが上空に発生した。


──あれは……なに?


突然青空がザクザクとハサミで切り取られた様な歪みが現れた。異変に気づきおじいちゃんに話したけど「ん?そんなのどこにあるのじゃ?」と言うのだ。


──もしかして僕にしか見えないの?


周囲を見渡しても騒ぎになっていない。そうか──僕の目がおかしいんだ……《吸血鬼》だからかな?なんて自傷してみたがその歪みはどんどんと大きくなる。


あれって──何かの前触れ?


おじいちゃんは「もう帰ろう」と言うけれど僕はアレから目が離せなかった。いや…離したらダメだと感じていた。僕にしか見えない何か。それは僕が見なくちゃいけないから見えるはず。そう本能が教えてくれたのだ。


歪みに注視していると徐々に大きくなった歪みは巨大な口の様に見えた。


──えっ!?僕……食べられちゃうの?流石にそれは嫌だった僕は少しガラス面から離れた。しかしその口は口をモゴモゴするような動きを始めた。


ん?何かを出すの?


ペッ!


そう聞こえた気がした。多分気がしただけだと思う。だってガラス張りだから。声は…音は聞こえない筈だよね?じゃないとおかしいじゃないか。僕にしか見えない口のような歪み。そして《ペッ!》って言う効果音。これって僕に対するドッキリなの?と感じるほどだった。


そしてその効果音がした直後──


歪みから何かが飛び出した。


初めに見えたのはフサフサした蒼い物体。その直後白銀の塊。


──人!?


歪みから人が出てきた。それもとても日本人には見えない誰か。いや……コスプレイヤーという可能性もあるか。


でも空からコスプレイヤーが落ちてくる?そんな事は絶対におかしい。あそこに秘密のアキバに繋がる入口があるなら納得だが。


でも僕なら絶対に利用しない。だって落ちるもん。すぐ死んじゃうじゃん。別に死が怖いわけじゃない。ただみんなに見られながら死ぬのは嫌だ。静かに死にたいと思うのが普通だろう。嫌がらせをする目的ならその人の目の前で死ぬのもありだろうが僕にはそんな趣味はない。


歪みから出てきた人は猛スピードで落下していた。どうやら三半規管が狂い、目が回っているのか落下している方向が定まっていないようで下手なヒーローが飛んでいるような間抜けな感じだった。


そして猛スピードでこっちに突っ込んできた。


──当たる!?と思ったがその人がどうにか軌道修正して真っ直ぐ下の方に移動を始めた。頭を上にあげ速度を落としているのも確認できた。そして気づいた時には歪みは無くなり、スカイツリーの展望台からは詳細が分からない足元にその人は降り立ったようだった。


人溜まりが出来ているな──


僕は目の前で起こった現実に頭がついていけず、訳が分からなかったが帰りたいと言っていたおじいちゃんに便乗して急いでスカイツリーを降りた。


エレベーターに乗ると僕は「早く!早く!」と思っていた。


どうしてもあの人に会わないといけない気がしたのだ。


それは何故か分からない。でも会わないと……


しかし僕がスカイツリーから地上に戻った時にはその姿はなかった。このままここにいても仕方がないと思った僕達はそのまま帰宅することにした。


でも僕はこの日からその人を探すことにした。本能がその人に会うことを望んでいたからだ。



こうして僕は外に出られる様になり、登校拒否は終わりを告げたのだった。

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