第5話 皇居にて
皇居に目星を付けたセシリア。空翔を使い一気に空を駆け抜ける。時速40キロ程の飛行物体は様々な所で目撃されることになる。しかし誰もその物体の全貌を掴むことは出来なかった。
それはセシリアが《認識阻害》を使っていたからに他ならない。勇者になって半年余り経った頃。押し寄せる無数の数の魔物にうんざりしていた時、斥候のレイから教わった技術。闇魔法を使って可視光線を吸収、屈折させ身を隠すのだ。
洞窟や地上ならば完全に擬態する事が可能。しかし周囲に何も無い快晴の空中では……いかにも怪しいモザイクで覆われた飛行物体の出来上がりである。
「あ、あれは何?」「変態が飛んでる?」「UFO?」「いや!UMAだ!」
散々な言われようだが本人の耳には届いていない。一直線に皇居へ向かうセシリア。
「ここは緑が多いのね。まずはここに降りましょう。」
無計画に異世界旅行に来たのは良いがスカイツリーという巨大な近代的設備を前に急激な不安に駆られたのだ。そして少しでも緑が多い場所を目指した事がこの後裏目にでることになる。
ブゥインブゥイン~
けたたましい警報が鳴り響く。セシリアの空中飛行は皇居の領空侵犯に当たる行為であり、ドローンによる皇居領空侵犯以降、最新技術でステルス機すらも発見できるシステムの構築に成功。モザイクセシリアは見事に引っかかったのだ。
「な、なに!?ここ入っちゃ駄目なの!?」
法律、規律といったものに縛られることが苦手なセシリアは領空侵犯なんて知りもしない。野生の勘のみで元の世界を生き抜いてきたのだ。無論元いた世界にも城の上空や他領土へと領空侵犯という法はあった。無知とは罪なのである。
「何者だ!」「不法侵入だ!」
ゾロゾロと警備員が現れる。彼らは《皇宮護衛官》と呼ばれ、警察官とは似て非なるもの。皇族を守るために日本で唯一ハンドガン最強と呼び声の高いデザートイーグル44マグナムの携帯が許された治外法権筆頭の存在だ。
「撃て!!!」
上官と思われる金のバッジを胸に3つ付けた男が叫んだ。
空中を飛び続けるセシリアの周囲を取り囲むように並んだ5名の皇宮護衛官が発砲する。
パンパンパンパンパン
乾いた音が響き渡る。44口径の巨大な銃口が狙うはセシリア。
初速460m/sの弾丸。それは有効射程80mと言われ50m程の距離にいたセシリアに十分届く距離だった。
「ふん…」
面倒くさそうに鼻を鳴らす。
刹那…時間にして0.2秒。セシリアは聖剣レシテンザを取り出し一閃。周囲には爆風が起こり弾丸は見事に真っ二つとなる。
「いきなり高速石つぶてとは……やってくれるじゃない。」
真っ二つにされた弾丸は皇宮護衛官にパラパラと降り注ぐ。
「ば、馬鹿な……」
上官と思しき人物が声を漏らす。
セシリアは《亜空間縮地》を用い一足飛びで上官の1mまで迫る。
「「「「「…!?」」」」」
皇宮護衛官が驚愕の表情を浮かべる。
「ひぃぃ…」
上官が声を上げるとその瞬間首元に衝撃が走り意識が飛んだ。
手刀による頚椎への軽打。下手をすれば神経が傷つき死に至らしめる技であるが、ことセシリアにとっては手刀に電撃を帯びさせる事で安全にかつ簡単に意識の刈り取りが可能な技でもある。その名を《頚撃》。近接戦闘が得意だった武闘家マックスに習った技である。
上官が膝から崩れ落ちたその瞬間。セシリアは飛び上がり空翔で宛もなく空を駆け抜けた。
一瞬の出来事に呆気にとられた皇宮護衛官は声も発せぬまま逃げるセシリアを傍観してしまう。
セシリアが次に向かう先は──
少しだが強い個体の反応のある場所。
それは──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます