第4話 日の国 東京へ転移

「なに…これ…目が回るぅ~」


空間の裂け目に入った私は真っ暗闇の中360°グルグルと回っていた。


それはまるで宇宙空間に投げ出されたかのような無重力状態の様な感覚。今まで味わったことの無い感覚ではあったが空気を蹴る技 《空翔》で何とか三半規管を狂わせずにいた。


「こりゃ長く持たないわね……んん?少し明るくなってきた!出口……?」


刹那…パッと気づくと画面が切り替わるかの如く周囲は青1色になった。下から吹く風が気持ちいい。なんて思っていたら空から落下しているようだった。


「ん。ここが異世界か。《空翔》」


足を極限まで早く下げることで起こる衝撃波に空気が反発し落下する速度を変化させる。頭が下にあれば加速。上にあれば減速する。ここがどこかも分からずに彼女は加速してしまった。


どんどん加速するセシリア。眼下には雲の塊が見え始める。雲を突き抜け見えた世界。


「やっばっ!!!」


目の前に迫る巨大な鉄塔。


スカイツリーだ。


突如迫る飛行物体を驚愕の表情で見つめるスカイツリーの展望台に居る1人の少年。そのスピードは隕石よりも遥かに早かった。凡そ時速50キロ。《空翔》なんかやるからである。


「と、止まれぇぇぇぇぇぇ!」


頭を上に上げ数千数万と《空翔》を発動させるセシリア。早すぎて足が見えないほどだった。衝撃波により展望台の窓ガラスは振動。あわや大惨事であった。しかし空翔のお陰もあって落下速度は徐々に低下していき地上に着く頃には人が歩く速度までになっていた。


周囲を歩く人々は「スカイツリーから人が落ちた!!」「宇宙人が飛来してきた!」「スーパーマンか!?」など様々な憶測が飛び交う中トンっと降りてきた蒼髪の女性。その姿は白銀の鎧に包まれ背中には1本の大剣。まるで古代ギリシャ神話に出てくる戦女神の降臨の様であった。


「ふぅ…危なかった……」


周囲のざわつきが凄いことになっている。スカイツリーの周りには直径10メートルほど離れた場所に丸く円状に野次馬たち数百人は湧いていた。それほどの注目度だったのだろう。


セシリアが乱れた髪を治すようにフワッと髪をかきあげると周囲から「ああ……」と溜息にも似た感嘆の声が上がっている。


この肩で切りそろえられた艶のある美しい蒼髪。そして金色に煌めく煌眼。更に180センチを超えたモデル体型の超絶美女こそ……セシリア・マイアスそのひとである。


「あら?何か御用?」


セシリアは意を決すると傍観する周囲に声を発した。しかしここは日本。恥の文化である。良くも悪くも周囲からはざわめきが起こるのみで声を掛ける勇気のある者は誰一人としていないのだ。いつまで経っても…。これでは埒が明かない。イライラのピークになった勇者セシリア。ガリガリと頭を掻き毟る。


「ふんっ…仕方ないわね……よっと!」


地面を激しく蹴りつけると上空100mまで飛んだ。そしてぐるりと周囲を見渡す。するとセシリアは少しだけ人の少ない場所を発見した。


それはどこよりも緑が多く──


そして最も元の世界に近そうな場所──






それは──皇居だった。

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