第3話 魔剣と聖剣レシテンザ

手足のちぎれた国王が高級薬草を貪り転がるカオス的状況の中私は魔法陣の中に立っている。


周囲の魔術師や召喚士は怯えながらも私の為に準備している。しかし──


この準備は本当に異世界旅行に行くための物なのか?


まるで──生贄にされている様だ。また騙そうとしているのでは?


──見せしめに1人殺すか……


「おい。貴様。こっちへ来い。」


白いローブを着た特に準備をやってない偉そうな召喚士を呼んだ。


「ひぃぃぃ!な、な、な、なんですか!?」


「見せしめよ。お前を殺す。」


「え…バ、バレ……ひぃぃ……あっ…」


「汚ぇな。大の大人が小便垂らすんじゃねぇ!また性懲りも無く私を騙そうとしているんだろ?悪意にまみれた貴様らの考えくらいお見通しだ。私に詫びて惨めに死ね。」


「こ、これは本当に…」


「ふぅん?じゃこれは何?」


よく儀式に使われる宝剣。生贄を刺す時に用いる祭事用の剣に扮しているがこれは魔剣の類だ。私に分からないとでも思ったのだろうか?まぁそれにしても魔剣とは懐かしいわね。あれはパメラが剣聖になる前──剣豪と呼ばれてた時だったかしら…



あれは3年前──ダンジョンの中だった。



「ねぇねぇ。この剣!宝箱に入ってたんだけどさ?見てみて!凄いんだよ!ブワーッとなってびゅんってなってドドドーってなるの!」


「はいはい。パメラ。日本語を話そうね?うわ!何それ!手が……剣に取り込まれてるじゃない!危険よ!今すぐ離しなさい!」


「ええ……もーちょっとだけ……いいでしょ?だって凄いんだもん!」


「ダメよ!離さないのなら腕を切断するわ!」


「わ、分かったから…え!?離れない?手から離れないよ!どうしようセシリア…」


「しょうがない子ね…」


パメラは色白金髪ポニーテールの天然娘で先日ドジを踏み隻眼となったばかりなのにまたドジを踏んだのだ。魔剣の装備。それは気をつければ防ぐことが出来る。鑑定を行えば良いのだ。それを怠り魔剣に取り込まれそうになるパメラ。半泣きだがドジっ子過ぎて慣れてきている。ここら辺で喝を入れる必要があるだろう。


「じゃ。右手を出して。」


「いゃぁぁあぁぁぁあああああああ!ゆ、許してぇ!」


「ダメよ。その手はもう使い物にならないわ。」


私は笑いそうになる心を押し込め、極めて冷めた口調になるように努めた。


「セシリアが本気の顔をしている……」


黒装束に身を包んた斥候のレイが煽り立てる。彼は私のしようとしている事が手に取るように分かるようだ。


「や、や、やっぱりこのままでいいからぁぁぁぁ!左目に続いて右腕も失ったら生活に困るからぁぁぁぁぁぁ!誰かぁ!お助けぇぇぇぇ!!」


何これ。ちょっと面白いんだけど。セシリアは単なる脅しの為に演技をしているのだが、パメラは本気で逃げ始めた。私から逃げられると思ってるのかしら?まだまだ甘いわね。これは仕置きが必要よ。レイにアイコンタクトを取るとパメラに足を引っ掛け地面に突っ伏す。


「痛っ!?ひ、ひぃぃぃぃ!こ、こ、来ないでぇぇえ!」


涙を滝のように流し懇願するパメラ。私は聖剣レシテンザを振りかざし彼女の握る魔剣へ──


パキンっ!


「えっ!?わ、割れた?私の手が割れたーーーー!」


そんな訳ないじゃない。ちゃんと見なさいよ。割れたのはその魔剣よ。最強の聖剣に勝てる魔剣など無いのだ。


「え……?は?手がある!手があるよぉぉぉぉぉ!」


だから言ったでしょ?割れたのは魔剣よ。貴方の手はまだ無事なはず。一応聖女リリアに頼んで解呪させたけど杞憂に終わったようだった。


聖女リリアは美しいシルクのような銀髪の女性で低身長貧乳だがスタイルは抜群という何とも稀なロリっ子モデル的ポジションを独占する唯一無二の容姿を持っている。とても聖女と呼ばれる様な性格ではないのだが見た目は完全に聖女そのもので猫を被るのがとても上手い。


「パメラ!あんたのせいで私がこき使われたじゃない!この汚いメスブタが!さっさと立ちなさい!」


リリアは自らの意思による魔法の行使以外を兎に角嫌う。命令されたくない高飛車な聖女それがリリアである。彼女の腹の中はどす黒く王子と結婚し国を乗っ取ることを目的として魔王討伐のパーティに入ったのだ。まぁ死んだ今となってはその野望は叶わぬままであり身を呈して死んだ聖女として祀られているのか腹立たしい。


「ひぃぃぃぃ!ご、こめんなさい!た、た、立ちますから……あ……」


ジョボジョボと音を立てて足を伝い流れる黄色い液体。またやったよ。この女。パメラはよく漏らす。しかも訳の分からないタイミングで。


「ああ……また……こめんなさい…ごめんなさい…」


天然娘パメラは剣豪程の剣術の使い手であるくせにその他がポンコツ過ぎなのだ。後に剣聖となるが何故剣聖になれたのかは私達の中でも謎で七不思議のひとつとなっている。


「もういいから。脅しすぎた私が悪いのよ。ごめん。でもね?ちゃんとしてもらわないと困るの。あなたは私と同じ前衛よ?あなたがルールを乱しちゃみんなが危ないの。分かった?次からはちゃんとルール守ってね?」


「ご、ごめんなざぁぃぁぃい…ま、守りまずがらぁぁぁ…」


「じゃ行こっか。パンツはそのままで良いわよね?」


「は、はい…ちょっと気持ち悪いですけど…慣れたもんです!」


ほらね。この子立ち直りも早いのよ。本当に分かってるのかしら?まぁまた気が緩んできたら叱るしか無いわね。



そんな思い出だったな──懐かしいよ。みんな私を置いて死んじゃうなんて酷いじゃない……



「さてと…あなた達は私を甘く見すぎた。私は貴方たちよりももっと強力な魔術師や召喚士に知り合いがいる。だから別に貴方たちが全員死のうが問題は無いんだ。残念だったな。後悔して死ね。」


「あ……」


1番偉そうにしていた白いローブを纏った老人の首を聖剣レシテンザで跳ね飛ばした。私には失う物なんて何も無いんだから。護るべきものは裏切り、守りたかった人達は全員死んだのだ。


「さぁ…どうするの?このままじゃ埒が明かないわ。シュルメイを滅ぼそうかしら?どうするのメッキ。」


「ひゃ、ひゃい!貴方様のお望み通りに致します。それだけは…どうか御容赦を…」


「ふん!なら早くそう言いなさいよ。もう待ちくたびれたわ。私は異世界へ旅行に行きたいだけなのよ?それをなに?死ねだとか化け物だとか失礼しちゃうわ。次もしも何か企んだら全員殺すわ。言い訳なんて聞かない。有無を言わさず王都全ての人間を惨殺する。その覚悟があるなら裏切ってもいいわよ?うふふふ」


「いえ!そ、そ、そんな滅相もない!アニサンス!は、早くせんか!セシリア様の要望通りに!」


バルムス国王は宰相アニサンスに命令した。アニサンスは召喚士達を誘導し私は晴れて異世界へ旅行に行けることになったのだ。


「で、では…行ってらっしゃいませ…」


「うん。もう二度と帰ってこないけどね。こんな糞みたいな世界。こっちから願い下げだわ。」


「「「「「「異世界転移発動します!」」」」」」


魔術師達は6属性の魔法を魔法陣に注ぐ。召喚士は魔法陣の維持を担当し異世界へのバイパスを繋ぐ。


大きく開いた空間の裂け目に背の高い建物やMの文字が入った看板が掲げられている世界だ。


「じゃあね。ごきげんよう。」


最後くらいはお淑やかにね。不気味でしょうけど。うふふふ。


セシリアは空間の裂け目に自ら飛び込んだ──

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