第2話 異世界旅行への道は険しい?

異世界旅行に行く──そう決めた私はすぐさまメッキ国王に謁見する事にした。善は急げ。それが私の座右の銘でもあり、魔王討伐時の死線を分けることにもなった。私は自分の本能に従って死地から生還したのだ。謁見の間に着くと私は片膝を地面に着き頭を垂れ、胸に手をやる。これがこの国の礼儀作法らしい。


「セシリアよ。褒美を決めたのだな?」


赤と金を基調とした豪華な服装をに纏う、割腹のいい白髪の老人メッキ国王がトンッと豪華な杖を床に着き私にそう言った。


「はい。王様。私は…私の知らない世界。異世界へ旅行に行きたいと思います。それが私の唯一無二の願いです。」


「──そうか。そなたは地位や権力は要らぬ。この国から出ていくと申すのだな?」


「はい。王様。私にそのような形あるものは不要でございます。」


「そうか残念だ──兵よ!前へ!この者を牢屋にぶち込んでおけ!」


──は?どういう事?


牢屋?兵?なんで私がこんな目に?


私を取り囲む近衛兵達。槍や剣を突き立てられ私は身動ぎすら不可能になった。


謁見の間は武器の携帯が許されない。更には特殊な魔法陣により魔法を放つことも出来ない。どうやら私は嵌められた様だ。


「大人しく栄誉貴族としてこの国の駒になれば良かったものを…」


メッキ王は私が地下にあると言われる牢屋に連れていかれるその瞬間そう言って醜く笑った。


──そして私も嘲笑った。


国王はこんな兵士達に私が殺られるとでも思ってるのかしら?


舐められたものね…


魔王を倒せたのは私がいたから。勿論聖剣や仲間達の存在も大きかっただろう。でもそれが決め手になったわけじゃない。最後は拳ひとつで魔王の土手っ腹に風穴を開けてやったのだ。それこそ魔力も体力も残ってない状態で生命力…自分の寿命を削って勝ったのだ。


笑わせてくれるわ──


謁見の間を出た私は周囲にいた兵士達を瞬時に無力化した。私の体に触れていた者は壁へと吹き飛び周囲を取り囲んでいたものは私が回転した事で発生した衝撃波で地面に突っ伏した。


──カスね。こんなが近衛兵士だなんて。私の仲間の1人にだって勝てやしないわ。


バーーーーン!


私は謁見の間の扉をぶん殴って強引に王の元へ行った。


ズカズカズカズカ


今まではお淑やかに勇者を演じてきたがそれもここまでだ。


「おい。メッキ。貴様ら全員皆殺しにされたくなかったらさっさと召喚士達を呼べ。3分だけ待ってやる!」


「ひ、ひぃぃぃぃ」


謁見の間から去ろうとしていた王はビクッとするとよろよろと歩きそのまま地面にペタンと臀を着いた。


「1…2…」


「お、お前達!は、早くするんだ!私が化け物に殺されるでは無いか!」


あなたが勇者と持ち上げたせいで私たちはあの悪の権化である魔王と戦ったんだよ?《化け物》って酷くない?今すぐここでこの醜い豚をぶち殺してもいいんだけどさ?異世界へ行けなくなるのは嫌だし。もうこの世界がどうなろうと私の知ったことではない。早くしろ。私がブチギレる前に。


そう思っていると宰相に呼ばれた王国御用達の召喚士とそれに見合った魔術師達が続々と謁見の間に来た。どうやら要望が叶うようだ。ふぅ。ようやく一安心か?と思った。


そんな矢先の出来事──


醜い豚野郎は口角をクイッと上げるとまたしてもこう言ったのだ。


「この者を捕らえよ!」


メッキ国王は馬鹿だった。


──分かったよ。この豚屑王は私に皆殺しをさせたいようだ。ふん。バカにされたもんだ。


「メッキよ。貴様のような屑が王として君臨することこそ国の悪。死んで詫びろ。皆殺パーティしの始まりだ。」


私は息を止めるとフッと力を抜いて最速を出す。一瞬で周りを取り囲んでいた兵士の首を容赦なくもぎ取り、宰相は手刀ひとつで首が飛んだ。召喚士や魔術師達は無力化にとどめる。これが意外と面倒だった。雑魚過ぎるのだ。デコピンですら殺せる程弱い。なんなのだ?この軟弱な者たちは。私たちはこんな強欲で弱い人間を護るために命を張ったのか?と馬鹿馬鹿しくなる。周囲が完全に無力化され、側近の惨殺された現状を見たメッキ国王は尿を垂れ流し涙を溜め私に懇願する。もう遅いけどね。


「く、くるなぁぁぁ…」


私は嘲笑ってメッキの手をちぎった。


「うぎゃぁぁぁあぁあああああ」


醜く呻く豚王を後目に今度は足を引きちぎる。


「ぐぎゃゃゃゃあああああああ!」


「醜い声だ。」


右手と左足を引きちぎられた豚王は息も絶え絶えに私に懇願する。


「た、助けてくれぇ…」


「は?助ける?もう助けたでしょ?魔王から。そんな私を裏切ったのは貴方よ。メッキとは面白い名前ね。鍍金が剥がれた鉄のようだわ。」


そういうと私は高級薬草をメッキに与えた。


「は?た、助けてくれるのか?」


「いえ?命を繋ぐだけよ。その後苦しみながら死になさい。貴方に生きる価値は無い。」


「か、神よ…ご慈悲を…」


「貴方正気?今更神に祈っても無駄でしょう。魔族の存在が邪魔になり一方的に攻撃を仕掛けたところ魔王を怒らせたことは明白よ。それでも私は人間を護るために命を張って魔王を倒したの。貴方がした尻拭いをさせられたのよね?そんなこと私が知らないとでも思ったの?全ては貴方の強欲が産んだ結果よ。死んで詫びるべきなのは貴方よ。」


もしゃもしゃと不味い高級薬草を食べるとそのままぐっと唇を噛みメッキ王は何も喋らなくなった。


ふん!殊勝な心掛けね。あと1回なにか話したら瞬殺してたわね。


召喚士、魔術師達を気付け薬で起こした私は彼らに命じた。


「私を異世界へ転移させなさい。さもなければここにいる全員を殺すわ。早く準備しなさい。」


召喚士達は手足をちぎられたメッキ王の姿を見て目を大きく見開き身震いした。そして私の命令に壊れた人形の様にコクコクと頭を縦に振り準備を開始した。


──これで漸く異世界旅行に行けるのかしら?

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