10.子どもの本能
「トワ、よこせ」
「やだよ」
「どうやって帰るんだよ?」
慎也さんにクルマで迎えにきてもらうことも考えはしたけれど。
「いいよ、どうせ暇だし。歩いて帰る」
両腕をあげてうーんと伸びをしながらてくてく歩く。ナイトウォークも悪くない。
「たまにはただ歩くのもいいか」
別行動でかまわなかったのに、シモンも私の後ろを歩いてついてきた。
翌日の朝、大学に向かう前に運動公園に行ってみた。今日もここなたちがいるんじゃないかって。
遊具が点在する子どもの遊び場で、ここなとひなたはすべり台で遊んでいた。
「昨日のおねえちゃん!」
すべり台のてっぺんから私を見つけたここなは、すべりおりた勢いのまま私のそばに駆け寄ってきた。
「また会ったね」
「うん」
ここなの前にしゃがみこんで私は小さな顔に問いかけた。
「ママはまたおねむ?」
ベンチに座ったここなの母親は、またまた船をこいでいる。
「うん、お母さんのしゅうかんだから。ああやって一休みしてからお仕事にいくのがいいんだって」
「なるほど」
出勤前のルーティーンでこうしておくと調子が良いっていうのはあるだろう。
「でもお母さん、今日はいつもより顔が明るいよ。昨日の夜よく眠れたって」
「そっか。ここなちゃんはママのことよく見てるね」
「ここながお母さんを助けないとだもん」
「そうだよね。じゃあ、おねえちゃんとも約束してくれない? ここなちゃんが助けてって思ったときには、素直にまわりの大人にそう言うこと。保育所の先生でも、おうちに来る大人にだっていいよ、もちろんおねえちゃんにだって」
「ん、大丈夫! 昨日はおねえちゃんとおにいちゃんに助けてもらったもんね!」
ここなはからっと笑って言った。この子はたくましいなと、私は内心で舌を巻いた。
こうやって見ず知らずの私に懐いてくれる一方、双子の父親である「おにいさん」をここなは嫌っていたようだ。本能で敵と味方をかぎ分ける、野生動物みたいなところが小さな子どもにはあるから。だから子どもは侮れない。
ここなには家族や周りの人間を明るい方へと引っ張る力がある。直感的に思って、私もよし、と笑った。
行政や民間サービス、本人に頼る気持ちがあれば支援を受けることができるのに、うまく活用できていないケースも多い。その点は杉本家は大丈夫そうだ。
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