6.尋問

 建物の手前の駐車場にここなの母親の姿を見つけた私は、慌ててシモンのTシャツを引っ張り、電柱の陰に隠れた。


 ここなの母親は、ナースジャケットの女性と、その女性のものらしい白い軽自動車のかたわらで別れの挨拶をしていた。明日の夕方も来ますので、なんて女性が話している。たぶん、健康保健センターの保健師さんだ。多胎児の育児サポートかなって思った。


 にしても、賃貸コーポだろう住宅の間取りは外観からも広そうには見えない。たぶん2Kというところ。子ども四人で賑やかだろうし、あんまりファミリー向けなふうには見えないし、隣近所に気を使ってタイヘンじゃないのかな。

 なんて印象も偏見かなって私は反省する。そんな私の傍らを保健師さんが運転するクルマが通り過ぎていく。


 気が付けば、シモンが私の横からいなくなっていた。あれ、と目を向けた先、個々の玄関ドアが並ぶ通路へと引き返そうとしていたここなの母親の目前に立ち塞がっていた。

 はあ!? どういうつもりなの、あいつは。


 慌てて駆け寄ってみれば、建物の外壁に取り付けられた電灯の下で、いつもは薄茶に見えるシモンの瞳が琥珀色に輝いていた。私のことなんて眼中に入っていないようすで、じっとここなの母親を見下ろしている。


 ここなの母親は立ちすくんだまま微動だにしない。後ろからそっと窺ってみると、凍り付いた表情で、引き寄せられるようにシモンを見上げている。瞳孔が開いて明らかに尋常じゃない。

 まさかこれって。背中に冷や汗を垂らして、私は邪魔をしていいかどうかもわからない。だってもう、シモンの術中なのだろうから。 


「ここなの父親は? どこにいる?」

「知らない。別れてからのことは何も」

 無感情に、低くかすれた声でここなの母親が答える。口だけがかくかくして、操り人形みたいだ。

「双子の父親は?」

「知らない。妊娠したことを伝えて、それっきり」

「逃げたってことか?」

「逃げた……」

「あんたはそれでいいのか?」

「わたしは結婚したかった。そうやって、わたしも逃げようとしてたんだなって」

「恨んでないのか?」

「恨んでない」

「ここなの父親のことは?」

「あの人は、かわいそうな人だから。わたしが、うまくできていたら違ってたかもしれないって」

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