5.夜歩き

「いつものおせっかいはどうしたんだよ? もっとガンガン絡んでけよ」

「や。そう言われても」

 向こうから相談してくるぶんには来るもの拒まずだけど、こっちから首をつっこむのはなって躊躇しちゃう、実は誘い受けなワタシなのである。

 それにここなの母親は殻に籠ってしまっている感じがする。アプローチの仕方を間違えたらいけない感じが。


「メシ食ったら、そこんち見に行こうぜ」

「暇人かっ」

「ヒマだし」

 そりゃそうだよな、引きこもりの吸血鬼だもんな、と妙に納得して、野放しにしすぎるのもなんだしなーと一緒に行動することにした。


「つっても家はわからないんだよね、すぐ見つかればいいけど」

 出かける支度をして私はいったん庭に回った。

 夏至を過ぎたばかりで夕飯時のこの時間でも残光で外はまだ明るいけど、日が落ちさえすれば行動できるようで、シモンもひょいひょい表に出てきた。


 ちなみに、黒いTシャツにカーキ色のカーゴパンツ、濃いグレーのキャップというごくごくフツウな服装だ。慎也さんに切ってもらって短髪になったこともあり、どこにでもいるオニイサンに見える。ちなみにこの服、自分でネットショップで購入したらしい。引きこもりの吸血鬼恐るべし。


「どうすんだ?」

「こうすんだ」

 私はここなの帽子に張り付けた切れ端の元の呪符で紙飛行機を折る。ちなみにこれ、師匠は鳥の形にしていたし、貴和子は可愛らしい蝶の形に折ったりする。手先の器用さが露骨に出る術なんである。


 紙飛行機にふうっと息を吹きかける。空を切って上昇した白い紙飛行機は、すうぅっと夕暮れの空を進んでいく。

「あれを追いかければいいんだな。よし、行くぞ」

「お気をつけて」

「はーい」

 縁側の慎也さんに手を振って、私もシモンに続いて走り出した。





 音もなく空を滑る紙飛行機は群青色の夕闇の中で鈍く発光している。シモンの目にその光は見えないはずだけど元々の視力がバケモノだからぐんぐん飛行機を追いかけて私の前を行く。


 人気のない山道を下って、もしかしたら運動公園に向かうのかも、という私の予想に反して、飛行機は山間の高架を渡って高台の住宅街へと向かった。


 運動公園とここなの保育所の中間地点あたりに、小規模の工場や住宅が混在した路地があり、紙飛行機は塗装店の工場の隣に建つ二階建てコーポの敷地へと吸い込まれていった。

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