7.本番
太陽が山の際に隠れて麓の街よりも早く薄闇が訪れると、後片づけを終えた地域のみなさんは荷物を自家用トラックに積み口々に挨拶を交わして神社からひきあげていった。いつもながら鮮やかな撤収っぷりだ。
ラムネや焼き団子や焼きそばをふるまうテントで賑わっていた境内には、ぽつんと茅の輪だけが残された。
私たち四人も家に戻り、いただいた焼きそばとお団子、おにぎりや漬物なんかで腹ごなしをしていると、ぼーっとシモンが起き出してきた。
「で? 何をするんだ」
慎也さんのしつけが良くて行儀よく台所のテーブルで血液パックを吸い始めたシモンに、私は簡単に答えた。
「もう少し夜が更けてから、始める。不測の事態もあり得るからあんたもその場にいて」
「ないわよ。不測の事態なんて」
貴和子が反抗的に口を尖らす。
「もう三年目よ。この辺はあらかたきれいになってるじゃない。来年には移動できるようにしなさいよ」
「そうだけど」
いつもだったら貴和子の方がテキトーな私を咎めるのに、今日はらしくないことを言う。そんなにシモンが気に入らないのだろうか。
「いてもいいけど、邪魔しないでよ」
ツンと言い置いて貴和子は廊下の奥へと消えた。それを克也が追いかける。やれやれだ。
数時間後。また袴を穿かされて外に出た私はぶうたれていた。
「ジャージでいいじゃん、ジャージで」
「気持ちの問題よ。きちんとしなさい」
ならなおさらジャージだっていいじゃんか、気持ちがあるなら。と思ったが機嫌の悪い貴和子が面倒で黙っておく。慎也さんも袴姿なのは嬉しいし。
「四方の結界呪作動させます」
慎也さんと克也が境内の四隅を回ると、虫の音さえも消えて鳥居の内側はしんと静まり返った。
左右の手の指すべてに木製の指輪を通した貴和子が茅の輪の前で両手を合わせた。
「わが馬具わが武具、そは神明の煌めきにて闇を切り裂く
貴和子の手の中に全長が二メートルを超える大弓が現れた。現在でも一般的に弓道で用いられている和弓だ。
二股のやじりの
貴和子が弓を引き絞る。鳥居と茅の輪の間から、御神鏡のある内側に向かって。
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