4.女同士の話
家の中で騒いで慎也さんに話を聞かれるのは嫌だったので貴和子を引きずって外へ出た。
「何を考えてるの!?」
茅の輪の前で私の腕を振り払い、貴和子は怖い顔で私を睨んだ。
「吸血鬼なんか引き込んで、何をするつもりなのっ?」
「そんな騒ぐことないじゃん。宿なし吸血鬼を拾っただけだよ」
「バカ!」
バカとはなんだよ、バカとは。私はため息を吐いてその場にしゃがみこんだ。聞く耳なしの相手に何を言ってもしょうがない。
私の態度を見て、貴和子は肩で息をついて落ち着こうとしているみたいだった。
「……あれ、国内産じゃないわよね?」
「たぶん」
「海外から来た怪物がうろついてたって不思議じゃないわ。こういう世の中だもの。だからってどうして家に住まわせたりするの!?」
私の向かいに同じようにうずくまり、押し殺した声で貴和子がまくしたてる。
「宮子さまが知ったらどうなると」
「どうなると思う?」
「……見目は良かったわね」
こくこくと私は同意する。
あのオンナは悪食なくせに面食いだからシモンなんて三秒で服を剥かれて精も根も吸い取られるだろう。
「え、何? 献上品?」
「ばか。なんで私が宮子のご機嫌取りしなきゃならないのさ」
「じゃあ、どういうつもりなのよ。わかるように話しなさいよ」
イライラが募ったのか貴和子はくちびるを尖らせる。昼間、人目のある場所ではお澄まししていたのに、こういうところは子どもっぽい。
「役に立つから置いておきたいの。チートだよ、チート。吸血鬼の身体能力」
貴和子はじとっと私の目を見つめた。
「慎也のフォローってわけね」
「そういうつもりじゃ」
「うそおっしゃい」
ぴしゃりと言われて今度は私が頬を膨らませる。怒らなくたっていいじゃんか。
「宮子なら、とっくに感づいてるよ。口出しするタイミングを見計らってるんでしょう。だからあんたもそれまで黙っててよ」
しつこいほど貴和子に念を押していると、茅の輪の向こう側でじゃりっと靴音がした。
「いつまでオレの悪口言ってんだよ」
日没直後のまだ薄暮の時間帯、シモンが不愉快そうな顔をしているのがわかった。シモンの聴覚ならまるっと盗み聞きされていても不思議じゃない。それでも私はへろっとごまかすように笑っておいた。
「女同士の話だよ」
私とは対照的に、警戒する表情でシモンを睨み上げた貴和子は、すんとも声を出さずに立ち上がりすーっと家の方へ行ってしまった。
残された私とシモンは、茅の輪越しになんとなく見つめ合った。
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