3.家路
「え、いいんですか?」
「いいよー。だから詳しい話は道々ね。早くおうちに帰りたいでしょ」
「ありがとうございます。あの……」
「トワでいいよ。私はあんずって呼んでいい?」
「はい。よろしくお願いします、トワさん」
ちょっと照れた様子でにこっと笑う。もーなに、この可愛いコ。
一気に仲良くなった私とあんずは、マモルを置いてけぼりにしてバス乗り場へと向かった。
「トワさんは神社に住んでるそうですね」
「そ。この下の神明社ね。毎日原付で来てる」
「すみません。わざわざ付き添ってもらって」
「いいっていいって。慣れてるし」
「マモル先輩にこういうことに慣れてるヤツがいるからって教えてもらって頼ってしまったのですけど」
「そーなの、慣れてるの。神社にいるからさ、お化けが怖いって言われればお札をあげるし、変質者が出たって言われれば取っ捕まえに行くし」
「強いのですってね」
「自己流だけどね、カラダ鍛えるの好きなんだ。動けると気持ちいいから。そんで特にマモルなんていろいろ頼み事してくるんだよねえ」
私のバックボーンがある程度わかって安心したのか、あんずはマモルから聞いた以上のことを話してくれた。
「それで、後をつけられてるのに気づいたのは、飼育実験が始まってからなんだね?」
「そうなんです。帰りの電車がいつも同じで、同じ方向に向かう人はもちろんいます。でも、今は思った時間に帰ることができなくて、乗る電車の時間はまちまちで、でも……」
「毎日後をつけられる」
「はい」
最寄りの駅から自宅まであんずの後をついてくるストーカーは、何時に帰ってくるか決まっていないあんずのことを常に待ちかまえているということだ。それは怖い。
「両親は自営業でお店をやってるので迎えを頼んだりできませんし、自宅にひとりでいるのは怖いので今は両親のいる店の方へ帰るようにしてるんです」
「そいつもお店についてくるの?」
「はい。それで最初の日、父が私と入れ違いに外に出て捕まえようとしたんですけど、外にはもう誰もいなくて」
「で、ストーカーがどんな奴なのかはまったくわからないんだね」
「たぶん、男の人ってくらいしか……」
そりゃそうだよなあ。フツウの女の子だったら変質者が後ろを歩いてるかもってなったら怖くて振り返れないよなあ。
そんなことを話しながら私たちは終点でバスを降りて電車に乗り、三十分ほどであんずが暮らす港町に着いた。
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