2.ストーカー

「おい、トワ。ちゃんと聞いてるか?」

 私は思いっきりすすり上げたラーメンを口の中でもぐもぐしながらこくこく頷き、次いでレンゲでチャーハンを口に運び、そのレンゲで今度はラーメンのスープをすすった。

 その間、マモルは不満そうな顔つきで私をじとっと見ていた。ちゃんと聞いてるっていうのに。


「その、あんたが気になってるあんずちゃんが、ストーカーにつきまとわれてるってわけね」

「べ、べつにそういうわけじゃ」

 マモルはテレテレと鼻の頭を掻く。わかりやすいヤツ。


 今朝キャンパス内で会うなり相談があるから昼休みに話せないかと言われ、それならチャーラーね、とたかって昼に学食で待ち合わせた。ほんとは大龍軒のチャーハンラーメンセットがよかったけど、万年金欠のマモルが金がねえって言うから学食ので我慢してあげたのだ。


 にしてもうちの学食のラーメンは不味い! ……ってこれ、前回のコピペじゃん!! ヤバいわー。繰り返される日常、ほんとヤバい。こうやって人は日々摩耗してくのだろうなー。怖いわあ。


「すっかり怯えててさ、でも今は講義を休めないって。かわいそうだろ?」

「そういう真面目なタイプの子が、へんなのに狙われちゃうんだねえ」

「おまえみたいのにつきまとう命知らずはいねえだろうしな」

「そうですね」

「とにかく、どうにかしてやってくれよ」

「それはいいけど」


 私はどんぶりを持ち上げてラーメンのスープを飲み干した。こんなところを健康的な食事の創造に使命を燃やしている彼女が見たら怒られるんじゃないかしらん。


「じゃ、さっそくあんずちゃんに会いに行こうか。紹介してよ」

「おまえ午後の講義サボろうとしてんだろ、そうはいくか。吉川は真面目に勉強してんだよ、会うのは今日の講義が終わった後だ。おら、オレらも次の教室行くぞ」

 ちっ。





 キャンパス内の建物の中でもいっとう古びていて小屋などと呼ばれる購買部の脇のベンチで待ち合わせた吉川あんずは、マモルの好みの子ならこういうタイプ、と私が想像していたそのままな感じの娘だった。

 小柄で顔も小さく、鼻も口も小作りだが目は大きくてぱっちりしている。誰が見ても可愛い女の子だった。


「お忙しいのにすみません」

「いや、忙しくはないよ」

 私がさばさば言うと、あんずはほっとしたように少し笑った。あらカワイイ。どうやらどんなセンパイが来るかと緊張していたようだ。


 時刻は既に午後五時近く、帰宅時にストーカーが現われると聞いていたから、私は今日は原付ビートを学校に置いてあんずに付き添うことにしていた。

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