第二話 窮鼠猫を噛む
1.吉川あんず
六年生で放送委員になり、給食の時間の放送を担当することになったあんずは、献立の紹介をしなければならず、給食の献立の作成をしている栄養士さんのところへ解説を求めに通った。ときには本人にマイクの前に座ってもらって「食育放送だより」をやってもらった。
個人的に接する機会が多かった分、学校職員と児童という垣根を越えて色々な話ができたのだろうとあんずは振り返る。
「わたしは子どもの頃から料理が好きで、それで自然と料理関係の仕事をしたいって思ったのね。それで単純に調理学校に行けば良かったのだけど、まわりに管理栄養士の方がいいに決まってる、手に職を持てるだろって言われて、つい。それでも、将来大切な人の為に健康的な食事を毎日作ってあげるんだーなんて夢見てたんだけど、その大切な人が、今ではあなたたち児童に変わってしまったというわけ」
彼女が、まだ子どものあんずを相手に対等な友人のように話してくれるのが好きだった。自分も大人になった気分だった。その話の中身を理解できたのは最近になってからなのだが。
こんなふうに彼女が語ってくれたことを今でも思い出せるくらい影響を受けたことは間違いなく、だが彼女と違って最初から未来の宝である子どもたちが健康的に成長できるよう食育に尽くしたいと望むあんずは、栄養教諭の免許も取らねばと考えている。
さて、順調に二年次に進んだあんずは、いよいよ栄養学科最大の試練と言われるラットの飼育実験を行うことになった。
グループ別に材料の異なる餌をラットに与え続けて観測するのだが、これが大変な作業で餌を作るだけでも時間がかかり、それまでよりも格段に帰宅の時間が遅くなった。
たらふく餌を食べさせたラットを一週間後には解剖するのだと思えば気持ちも滅入る。人間の健康を追求するために別の動物を犠牲にするのもおかしな話だ。いや、食べるということ自体命をもらっているわけだが。
せめて動物実験などしなくてよくなればいいのに。AIの活用で動物実験の九割を減らせるとニュースになっていたが、いつそうなるのだろう。
つらつら思い悩みながら家路を辿っていたあんずは、ふと気がつく。誰かに、後をつけられているような……
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