9.結末
「シモン!」
馬頭のふたりが動く前に私は後ろに飛び退った。こんなヘンタイの相手なんかしたくない、すべてシモンにお任せだ。
「殺しちゃダメだよ」
「それがいちばん難しい」
私が下がった分、屋内から飛び出してきたひとりの右腕をねじりあげながらシモンはぼやく。首を振って声を上げようとしたそいつの喉元を締め上げる。
だらしなく落ちたそいつのマッパの身体が崩れると、後ろにいた奴が「なんだおらあ」みたいな声をふがふがあげながら(なにしろ被り物のせいでよく聞こえなかった)仲間を踏み越えてきた。
両手を握り合わせた拳をシモンの頭上に振り下ろす、屈みながら横によけたシモンは体を返しざま肘を伸ばしてそいつの顎を狙って掌を打ち上げた。
首周りまで下がった被り物の上からだったけど掌底打ちがキレイに決まったからこれで終わりだと私は思った。
なのに馬頭のマッパの男は倒れなかった。かっくんと首を戻してシモンの体に両腕を回そうとする。そいつの方が格段にデカかったのだ。
シモンは眉を顰めて優雅に足をさばいた。動体視力にも優れる彼にはウドの大木にしか見えなかったことだろう。
「キタねえもん押しつけんな」
吐き捨てたときには、足払いされて見事にひっくり返った男は地面に頭を打って動かなくなった。やわらかい土の上だから大事はないだろう。被り物してるし。
確かめずにはいられなかったのか、シモンは不愉快そうな顔をしながらしゃがみ込み、昏倒しているふたりの男の馬の頭を少し引っ張った。
「人間だな」
「あたりまえ」
私は手振りでシモンに撤退を促した。
「というわけで、私の出番はまったくありませんでした」
ネイキッドの助手席で報告すると、運転中の慎也さんは前方に顔を向けたままほっとした顔で頷いた。
「慎也さん、良かったー助かったーって思ってる?」
私はちょっと口を尖らす。
「十和子さんに何事もなくすんで安心したんですよ」
慎也さんは横目でちらっと私を見る。その流し目に私はずっきゅんとなる。我ながら簡単だ。
翌日の昼休み、学内ラウンジで会ったマモルはスマホで最新ニュースを見たと言って怒っていた。
「なんだよ。大麻を栽培、犯人は馬の被り物って」
「ねえ? しょーもないねー」
駅前の交番に通報しておいたから連中は即座にお縄になったようだ。自分で使用する為と話しているらしいが、あの栽培量が営利目的でないわけがない。販売ルートを紹介するような人間も出入りしていたのだろうな。
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