8.醜態

 シモンの吸血鬼としての力の源は若い女性の血液だという。動物のそれでも食事代わりにはなるけれどいちばん望ましいのは年若い女性のそれだと。どうやら私の体液はその代わりになるようだ。


 今もそれで元気になったシモンは、鈍く光る眼を雨戸が閉まった家屋へと向けた。

「中に男が二人。それほど年は取っていない。まだ若い」

 透視かって思っちゃうけど、そうではなく、あくまで気配を感じるだけらしい。

「なんだか、妙な気配だが」

 シモンが眉を顰めるのに、私はあーと乾いた笑みを浮かべちゃう。多分、中でラリってるのだろうなー。


「突入か?」

「中には入りたくないから、出てきてもらったほうがいいかな」

「正面から?」

「うん」

 私はまだるっこしいのは嫌いだ。さっさと終わらせてコンビニの駐車場で待ってくれてる慎也さんのところに戻りたい。


 南天が茂る脇を通り私は玄関前に立った。古びたガラス格子の引き戸を叩く。控えめに拳を当てたつもりだったけどしんとした夜闇に無粋な音が拡散してしまう。思わず隣家の住人が顔を覗かせないかと気にしてしまう。

 そんな私の目線を辿って隣の屋根を見やったシモンが首を横に振った。


 肝心の家の中からは相変わらず物音がしない。室外機だけが回り続けている。

 もう一度ノックしようとしたとき、背後から踏切の音が響いてきた。すぐにボリュームが下がる。私は引き戸を叩く。

 その直後、ガラス戸に大きな影が差した。がたがた戸が揺れる。がらっと開く。目の前に現れたものに私は息を呑む。


 やあだって、ある程度心の準備はしていたものの、こうも予想外なものが目に飛び込んできたらさすがに驚きますよ。ここまでヒドイとは思わないじゃないか。

 私の目の前には、マッパで馬の頭の被り物を被ったヘンタイが仁王立ちしていたのだ。ふたりも。


 がたがたと家屋に鈍い振動を伝えながら貨物列車が通過していく。その間、屹立したモノに気を取られながらも私はさっと室内に視線を走らせた。

 温かみのあるオレンジ色の明かりの中、畳の上にびっしりと植木鉢が並んでいる。繁る草木から胸糞悪くなるくらいの青臭い匂い。


 やっぱりだ。ここで大麻を栽培していたのだ。かすかに混じる甘い匂いは乾燥大麻のもの。こいつらの常軌を逸したいでたちといい、カチカチにコーフンしているアレといい、しっかりばっちりキメてらっしゃることは間違いない。

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