3.石碑と墓地
スニーカーの靴底で砂利を踏みしめながら進むと、すぐに踏切に続く道路とクロスし、そこをすぎると両サイドを二メートルほどの水色のネットで覆った区画が現われ、一気に見通しが悪くなった。
モンシロチョウがひらひらと何匹も飛んでいるから、ネットの向こうはキャベツ畑なのだろうかと思う。
白い羽をはたはたと震わせてくっついた二匹のモンシロチョウが、私の頭上を横切っていく。オスがメスを追いかけてるのだろうか。
見上げて、視界の狭い空に雲が広がっていることに気づく。あの雲はあやしいなあ。雨が降ってきそう。急いだ方が良さそうだ。
ずんずん先に進むと、両サイドはやはり背の高い木立や生け垣に変わり、しばらくして突然視界が開けた。
木立が途切れた南側は畝が整えられただけの畑、北側は住宅の境界の生け垣が角になっている場所で、小径のその部分に一際大きな樹木が植わっている。そのぼこぼこした根元から続くむき出しの土が丘のように小高くなった場所に石碑があった。
想像していた通り「馬頭観世音」と文字を記しただけの小さな灰色の石だ。けど、予想外だったのは、その後ろにこの石碑の由来を記した板状の御影石の立派な石碑が、でんと建っていたことだ。肝心の馬頭観音の石碑よりもずっと存在感がある。
その由来書によると、江戸時代農業を営む「当家」において力になってくれた二十一頭の農耕馬の冥福を祈り石碑を建立した、というものだった。この土地はその農家が所有する墓地というわけだ。
今でこそ個人の土地にお墓を作ることは法律で禁止されているけれど、それ以前から存在している「みなし墓地」というヤツだ。
だからといって、馬の亡骸までこの場所に埋葬されているわけではない。この石碑は墓ではなく慰霊碑だ。馬たちは安らかに成仏しているに違いない。
わざわざここに来て確認するまでもなく眉唾だったのだ、馬頭観音に馬のお化けだなんて。それなら、マモルが目撃した馬の頭はなんなのか。
灰色の曇り空からひらひらした黒いものが舞い下りてくる。
視点を合わせて見れば、それはクロアゲハだった。由来書の石碑のてっぺんに少しとどまり、すぐにまた舞い上がって左手の大きな樹木の枝葉の間に紛れてしまう。
それを目で追った私は、大木の向こうに隠れるように古びた家屋が建っていることに気がついた。生け垣に囲われた住宅の向こうにもう一件家がある。
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