4.同居人

 なんとなくカンが働いて私はその家に近づいてみる。


 墓地との敷地の境なのか一応ここにも砂利道が続いていて、でも家の周りには下草が多く、粗末なつくりの木造平屋の住宅は壁も朽ちかけているように見える。雨戸が閉じているし人が住んでいるようには見えない。


 ところが、南天が野放図に繁って蜘蛛の巣だらけになっている玄関扉前から折れた壁の向こうには、エアコンの室外機が置かれていて、しかもそれは回っていた。

 屋内でエアコンを運転しているのだ。ということは人がいる? にしては不気味に静まり返っている。


 墓地から小径をもう少し先に進んだ場所にあるらしい踏切で、カンカンカンカンと音が鳴り始める。ほどなく遮断機が下りたらしく音が小さくなった。

 その音を聞きながら私は鼻で空気を吸い込んでみる。


 湿り気のある外気には雨の気配。この場所は草木が多いから青臭い匂いがつんとくる。

 だがそれにしたってどうにも臭すぎるのだ。それを堪えて鼻を利かせれば、また違った甘い匂いがわずかに漂う。


 すぐ北側の線路を三両編成の電車が通過していく。振動で古い家屋の黒ずんだ壁が揺れている。

 私はそっと後ずさり踵を返した。鼻先に、ぽつんと雨粒が落ちてくるのを感じた。





 雨が振り出してきそうだった曇天はしかし持ちこたえて、私が住処である神明社の境内の家に帰り着くころには逆に空は明るくなった。やれやれだ。


「あれ? 十和子さん早いですね」

 真っ先に慎也さんに見つかってしまい、私はえへへなんて照れて見せる。


 縁側で慎也さんお手製のプロテイン入りどら焼きをいただきながら、マモルに持ち込まれた相談事と、実際に行って見てきた様子を伝えると、慎也さんは柔和な面差しの中に少しだけ険しい色を浮かべた。


「馬のお化けが怖くて夜歩けないからなんとかしてくれということですか? まったく、あの御仁は十和子さんをなんだと思っているのか」

 まあ、それがマモルの通常運転だし、チャーラー奢ってもらったし。私がおおらかな気持ちでへらへら笑っていると、慎也さんはそっと息をついた。

「それでどうなさるのですか?」


「今晩、シモンともっかい行ってみようと思って」

 決定事項として断言してから、どら焼きの最後のかけらを口に放り込んでもぐもぐしていたら、居間として利用している八畳間の奥のふすまが、すーっと音もなく開いた。隙間から赤茶っぽい金髪の頭が覗く。

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