第一話 馬の耳に念仏

1.相談事とチャーラー

 その小径こみちは、舗装もされていない砂利道で、半ばほどは土がむき出しになって窪になり、雨の日には水たまりがたくさんできる。雨があがった後もぬかるんだままでなかなか乾かず足元が悪い。


 小径の北側はその向こうの住宅の生け垣が続き、南側も畑との境界のネットと木立が壁になっている。幅は大人が二人すれ違うことができないほどで、反対側から歩いてくる人がいたなら体を横にして避けなければならない。樹木や下草が多いから虫や蜘蛛も多い。


 それでもその小径を往来する人の脚が絶えないのは、駅から住宅地へと直線距離でつながる抜け道だからだ。この小径を通らずに迂回するとなると、駅の南側の街道に出てからまた線路側に戻るという感じにかなりの距離と時間がかかるという。古い住宅がひしめき合う地区ならではであるようだ。


 当然ながら人通りが多いのは通勤通学の時間帯。だがそれ以外でも、犬の散歩をする人や新聞配達の原付バイク、買い物に出かける自転車のおばちゃん、などなどが行き来する日常的な生活道路であるという。


 その小径の半ば。南側には畑、向かいの北側に少し開けて空き地になっているような場所に、馬頭観音の石碑がある。その奥には黒い御影石の立派なお墓もあり、田舎によくある昔昔に作られた墓地のようだ。


 在来線の線路とほぼ平行に沿っていて、踏切が近く水銀灯の明かりがそこまで届くし、まわりに民家がまったくないわけではない。だから割と夜にも人通りがあるというのだが、最近その場所で……


「おい、トワ。ちゃんと聞いてるか?」

 私は思いっきりすすり上げたラーメンを口の中でもぐもぐしながらこくこく頷き、次いでレンゲでチャーハンを口に運び、そのレンゲで今度はラーメンのスープをすすった。

 その間、マモルは不満そうな顔つきで私をじとっと見ていた。ちゃんと聞いてるっていうのに。


「そんで? その場所に出るって言うの? 馬のお化けが?」

 とっくにカレーを食べ終わっていたマモルは空になった銀皿を脇にどけながら深刻な表情で頷いた。

 馬頭観音に馬のお化けって。私は鼻で笑いそうになってなんとか堪える。


 今朝キャンパス内で会うなり相談があるから昼休みに話せないかと言われ、それならチャーラーね、とたかって昼に学食で待ち合わせた。

 ほんとはふもとに下ってすぐにある大龍軒のチャーハンラーメンセットがよかったけど、万年金欠のマモルが金がねえって言うから慈悲深い私は学食ので我慢してあげたのだ。ならたかるなよって話だけど。

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