6.マンガ肉
こうして慎也さんが整えてくれた快適なこの家に今年の春、更なるバケモノを引き込んでしまったことについては申し訳ないと思っている。そいつの食事(血液)の調達までお任せしてしまい、いくら慎也さんが私の言うことをなんでも聞いてくれる人だからって。
でもシモンの身柄に関しては私にも打算があり、コイツを手中にしておきたいというのがある。慎也さんは何も言わないけど、私の皮算用を察しているのだろうなと思うと胸が痛む。
さて、あんずのボディガードをひとまず終えた私が我が家に帰ると、件のバケモノは居間のちゃぶ台の前で原始人のように巨大な骨付き肉に噛り付いていた。ギャートルズに出てくるみたいな、マンガ肉って呼ばれてるあれ。黙ってればお貴族様みたいな白皙のイケメンがマンガ肉。残念すぎる。
「すみません、十和子さん。駅までお迎えに行くつもりだったのに」
「いいのいいの、バスがちょうどあったから。それより、あのお肉は?」
私が尋ねると慎也さんは微笑んだ。
「筒井さんからの戴き物です。お孫さんが食べてみたいと言うのでネットで購入したのだそうで」
やっぱり適度に現代化した田舎だ。
「十和子さんも食べますか?」
「んーん。実は餃子をもらってきたんだ。焼いてくれますか?」
あんずのご両親のお店は餃子専門店だった。中でも小振りの一口餃子が評判で食べてゆきなさいと言われたけど、今日のところは帰りますと断った。それでお土産を持たせてくれたのだ。
「わかりました」
餃子を持って台所に向かう慎也さんの後に私もついていく。
「ビール飲んでいいですか?」
「……一本だけですよ」
めっという顔をしつつ許してくれる慎也さんにくらっとなりながら私は冷蔵庫を開けた。
翌日あんずの実験が終わるのを待っていると時間は優に午後七時を越え、お待たせしてすみませんとしきりに謝られたけれど、そんなことはかまわなかった。
あんずを待つ間、私は家政学部の実験室や研究室がある三号館のまわりをずっとうろうろしてナニモノかの気配を探った。
腕っぷしに自信があっても私は感覚が鈍い。悔しいけど。猫並みの嗅覚があればなあと思う。
やっぱり昨晩のうちにひとっ走りシモンに探ってもらえば良かった。そうも考えたけどもう遅い。
昨夜なし崩しに三本四本と500ml缶のビールを飲み続けた私は酔っ払ってたし、シモンはシモンで餃子がニンニク臭いと怒り出し、あんただって炙った肉なんて食べてお腹壊さないのかと突っ込んでやったら、食ってねえ噛んでるだけだ使わないとキバが鈍るとかなんとかドヤ顔で言うから、意味わかんないだったらその肉こっちによこせと要求したらキレ始めて、私も酔っ払ってぐずぐずで作戦会議どころじゃなくなったのだった。
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