7.チートとクレーン
しょーもないとは思うけど反省はしない。どうせなるようにしかならないのだから。
シモンは私と同じく寝て起きれば忘れるタイプだし、慎也さんとは今朝打ち合わせしたから大丈夫だ。
あんずと並んで駅へと下りるバスの座席に座ってから、私はスマホを操作して、移動を開始してくれと慎也さんにメッセージを送った。
昨晩と同じようにあんずの両親の店がある通りに入ると、ひたひたと背後から足音が追ってきた。気配を窺いながら、私はそっとあんずに説明した。
「今日こそ取っ捕まえる。この後、連絡できないかもだけど明日学校でちゃんと話すから」
「トワさん、大丈夫ですか?」
「だいじょぶだいじょぶ。心配しないでお店の中でじっとしててくれるのが一番の応援だからね」
「はい。わかりました」
んー、素直で可愛い。みんながみんなあんずみたいに素直だったら世の中平和だろうに。
昨晩と同じように背中を押すとあんずは店の中に駆け込んだ。私はくるっと振り返る。目の前に暗い色のスーツ姿のおっさん。
やっぱりだ。昨日と背格好も何もかもが違う。昨日とは別の男がそこにいた。
昨夜と別人のその男は、昨夜と同じようにすぐ脇の家と家の隙間に逃げ込もうとした。が、
「させねーよ」
立ち塞がったシモンが意地悪そうに唇の端を上げて笑う。
男は来た道を引き返そうとする。シモンが素早く動いてその方向も通せんぼすると、男は前方に向き直り私の横をすり抜けて走り出した。
「シモン! うまく誘導して」
「わかってる」
風のように通りを走り抜けていく男をシモンが追いかける。私もなんとかその後についていく。
途中、男は何度も路地の隙間に逃げ込もうと試みていたが、その度シモンは瞬間移動かって素早さで先回りしてそれを阻止した。
吸血鬼の素早さハンパねえ。空を飛べるっていうのもホントだったりするのかな。神仏じゃん、それじゃあ。チートだ、チート。
やがて前方で道が二又に分かれているのが目に入った。シモンが男の頭上を飛び越え左側の道を塞ぐ。男はそのまま右側へと逃げていく。よし。
右側の道はカーブしながらゆるやかな坂道で山の中へと続いていく。住宅の数が減り木々が増えていく。
その合間に、門型クレーンが聳え立つ鉄骨業者の資材置き場があった。廃業したらしく錆びついた巨大なクレーンだけが放置されて空き地のようになっている。地図で見た通りだ。
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