第7話
僕は,クラスにもあまり仲いい人がいなかった。小学校の学区域がみんなと違うから,新入生のときからクラスに馴染めなかったし,自分で言うのもなんだけれど真面目な性格のせいで,ちょっと羽目を外して男子と遊ぶこともできなかった。
でも,僕には幸太郎という仲のいい友達がいるし,学校の先生達とも仲が良かった。僕にとってはそれで充分だと思っていたのだ。
「だからって毎週音楽室に来ても仕方ないでしょう」
「ごめんなさい」
「まあ別にいいのだけど」
そう言って笑う
「先生は友達とかって必要だと思いますか?」
「君には友達はいないの?」
「うーん,特に?」
「小林君は?」
「幸太郎は友達っていうか,なんか変な関係な気がします?」
「私は別に友達がいなきゃいけないとは思わないよ。君はまだ中学生で,これから高校や大学や社会に出ていく過程で,たくさんの出会いがあるはずだから,今すぐに友達を作らなきゃいけないなんてことはないじゃないかな」
「ですよね」
「でもそれは,クラスメートと仲良くしないとか,そういうんじゃないんだよ」
「でも友達になる必要はないんですよね」
「友達になる必要はないけれどね。それでも人と共に生活しているんだから,友達でなくたって名前を呼びあって,一緒に苦楽を共にして,人間関係を作ることは大切なんだ」
「難しいです……」
「そうだね。私も学生の頃は友達なんていらないって言って,よく一人でいたんだよ」
「でも先生,今はちゃんとした大人になっているじゃないですか」
「中学生にちゃんとした大人なんていわれるのは複雑だけれどね。
大人というのは,時間が経てば誰でもなれるんだ。でも私は学生の頃の話をしている同僚を見るたびに寂しくなる。いいかい。時間が経ったとしても,中高生の頃の友達は新しくできないんだ」
「うーん……」
「孤独は寂しいことなんだ」
「でも僕は友達がいなくたって寂しくないです」
「ふふ,それはどうしてだろうね」
下駄箱で上履きからスニーカーに履き替えている間,小沢先生の言葉を何度も反芻して考えていた。友達がいない僕は,どうして孤独じゃないんだろうか。
「よー隼人。一緒に帰ろうぜ。今ならひかりちゃんも一緒だぞ」
「おー幸太郎。帰るか」
中山さんと一緒に変えるチャンスを作ってくれて,幸太郎もたまにはやるじゃん。そんなことを考えながら,ノートを『ありがと!』の文字を思い出して,二人にばれないようににやけていた。
三浦くんの日常 細川ひふみ @Hifumi25
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