第62話 穢れた妊娠

珍しくあの女がキッチンに立っている。

不思議だな、と思った朝だった。


俺は相変わらず目に力が入らなくなったままで、目に映るものに対して何も感じない何も考えない日々を送っていた。

だから見ていても何もわかっていなかった。


この3ヶ月、あの女はほとんど家にいた。

夫婦の寝室から出てくることはほとんどなかったが、家から出て行った様子は全くなく、たまにトイレやリビングで見かけた。

そしてあの男も家にいた。

最近では何で稼いでいるのかわからないが、あの男もほとんど家から出なかった。つまり、あの2人はずっと、家にいた。


キッチンに立っている様子を見て、少しずつ、俺にも真実が少しずつ理解できてきた。そこにいるのは、痩せ細って目ばかりぎょろぎょろさせた、気持ちの悪い母親の姿だった。

田上が言った。

「おいにゃとくん!よかったな、お前、お兄ちゃんになるんだぜ」

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