第56話 新しい家は地獄の入り口

俺の部屋は、二階の六畳間だった。日当たりの悪い、北側の部屋で、暖房をつけていても寒いくらいだった。

この新しい家は、外から見ると今時の、小さいけれど機能的な、白い壁のドラマで見るような家だけど、中は狭苦しくて、俺は嫌でたまらなかった。


一階は15畳くらいのリビングとキッチン、風呂とトイレ。二階は北側の俺の部屋と、物置を挟んで南側に主寝室、あの女と田上の部屋があった。傾斜地の、細長い土地に建っているので、変な間取りで、外から見ると一階が少し浮いてるというか、二階に見えるくらい地面が埋め立てられていた。


とにかく全部の部屋の壁が眩しいほど白くて、この二人のどす黒い人生を、異常に明るい日の光を当ててごまかしてるみたいな気味悪さがあった。


田上は、以前不倫中に借りたマンションをそのままにしてあって、そこを事務所にしていて、毎日出勤していた。なぜか事務をやるからと言って、あの女も毎日一緒に出て行った。なんの仕事をしているのか、まだITなのかすら、俺は知らない。興味もなかった。あの夏、田上の指示で殺した子供の代償として借りたマンションに、平気で通える二人を見ながら、たった一年前に自分たちがやった事が、この二人の脳内では完全に正当化されていて、むしろ良い記憶にすらなっている様子がおぞましかった。


とにかく俺は、心に暗い影が差しかかると、部屋に閉じこもって、あの、ハムレットを読む。そうすると心が軽くなった。そこには俺よりひどい人生の男が描かれていた。俺はほとんど毎日、理沙子さんはどうしてるかな、と考えていた。

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