第57話 苗字
引っ越して、他の男と暮らしているが、あの女と俺の苗字は石井のままだった。離婚した事をママ友たちに知られたくない、再婚するタイミングで、パッと田上に変わった方が、かっこよくない?というくだらない理由で。俺には、あんたの苗字がしょっちゅう変わると学校で変な目で見られるでしょ?とか、あたかも俺のためみたいに言ってたが。
だけど、暮らし始めてあの女が上機嫌だったのはほんの1ヶ月くらいだった。理沙子さんの雇った弁護士が有能な人気弁護士なせいで、なかなか話が進まない、と日々ぼやいていた。しかも、田上の仕事はやっぱり軌道にならないみたいで、なかなか稼ぎが上がらない。
「ねえ、もう家売っちゃって払ってやる金額はっきり出せば?向こうもそこまですればすぐハンコ押すでしょ?」
「いや、あいつハンコはとっくに押してるんだよ」
「は?え、じゃあんたが出してないわけ?」
「全部ちゃんと終わったら出すって事で、俺が持ってる」
「は?馬鹿じゃないの?じゃさっさと出してよ!向こうが引き留めてるわけじゃないんじゃん、馬鹿馬鹿しい!」
「うるせーな、俺らのことに口出すんじゃねーよ」
「おれら?おれらって何よ!あんたほんとに離婚する気あんの?」
「あるよ!」
「調停呼ばれてんでしょ?行くわけ?みっともない!こっちも別れるって言ってんのに何が調停なわけ?」
「行かねーよ!なんでこのおれが裁判所なんて行かなきゃ行けねーんだよ。行くかよ!」
「なんでもいいからとっとと離婚しなさいよ!」
毎日毎日、こんな調子だった。
俺は聞かないフリでいつも部屋にいた。
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