第55話 新居

俺は親がぶっ壊れてる割にはずっと成績は良くて、あの女はそれが自慢だった。今は、ダブル不倫の末に略奪結婚できる、という自分自身のドラマに夢中で、俺が最下層の高校に入ったことは、母にとってはより母を捨てて女になれる要素が揃っただけだった。


あの女は、新居探しに毎日忙しく、田上と会っては物件を見にいき、結果、この同じ駅の反対側の、新築の建売、小さな家を買うことになった。父さんが建ててくれた家の半分くらいしかない家だ。

「今は離婚だなんだで金がないからさ、ここで我慢してくれよ。そのうちまた大きな家に引っ越そう」

田上は言ったが、このおっさんもう、50だ。日進月歩のIT業界で、このおっさんに仕事なんかあるもんか。高校生の俺でもそんなことはわかるのに、あの女はこれで自分もセレブになれるとはしゃいでいた。田上が自分と不倫してた頃と同じ金回りになると当たり前のように信じている。世間知らずな馬鹿もここまでくると幸せなもんだ。


こうして、あの女と俺と、田上のおっさんの同居生活が始まった。まだ、ギリギリ同居だ。あの女は、ありもしない父さんの不倫をでっち上げて慰謝料をとって、それを頭金にこの新居を買った。俺の養育費もたっぷりとる事を決め、あの思い出が詰まった家も処分して、かなりの金をせしめてさっさと離婚届を提出した。田上のおっさんはまだ、離婚届にハンをおしてなかった。

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