第54話 入学式

そんな不安定な家庭の状況の中、俺の高校生活はスタートした。

親が離婚調停中の、俺の入学式には、何を勘違いしたのか田上が出席した。このおっさんも、離婚調停中のはずだ。


「直人、入学おめでとう。なんか色々ごめんな。大学は好きなところへ行けるようにサポートするから。とにかく高校生活、楽しめよ」

「まだ田上さん、離婚してませんよね?」

「え?あ、ああ。だけどもううちはさ、慰謝料は払うと決めた。向こうが出て行って、もう完全別居になって3ヶ月経ったよ。弁護士からの連絡以外は何もない。俺も連絡してないしな。こうなったらもう人生すべてなりゆきまかせ、だよ。」

「じゃあすぐ離婚ですね」

「だと思うけど。あとは今の家を売って、財産分与して全部おしまいだ。呆気ないよな。あいつとは中学の同級生でな。人生48年中35年一緒だったんだわ。そりゃ飽きるよ。」

「そんな長い時間を共にしてくれた人に、こんな酷いことしても平気なんですね」

「けど俺だって辛かったんだぜ。あいつ仕事仕事で家事とか一切やらないしさ。セックスだって結婚して2年くらいで断られて。俺が外に女作っても当然だろ。ヤらせないんだからさ。そんなの夫婦っていえるかよ。本当に、サイアクの結婚生活だったよ」

「へー。なんでなんですかね?なんで拒否ったんですかね?田上さん、下手なんじゃないっすか?」

「直人、お前何言ってんの?自分の母ちゃんに聞いてみろよ、その辺についてはさ。てかさおまえまだ童貞だろ?女知ってから言え、そーゆーことは」

「わかりました」

「とにかく入学おめでとう、息子よ!これからよろしくな!」


また汚い歯を見せて笑い、田上は去って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る