第53話 離婚調停
調停中は会いに行くなと言われていたので、半年以上俺は父さんにも、じいちゃんばあちゃんにも会えなかった。受験も、本当はひどく不安で、志望校に落ちた時は人生どうなるのかとか、最終的にどこかしらの高校へは行かなきゃいけなくて、どうすれば良いのかとか、とにかく迷ってきつかった。
一度だけ、電話した。ばあちゃんが出た。
「あ、ばあちゃん?俺。直人だけど」
「なんの用?」
「あ、あのさ、受験、ダメだった。」
俺はばあちゃんに慰めて欲しかった。大丈夫よと、言って欲しかった。
「そう。それで?」
「え?う、うん、、、それだけ。」
「そう。じゃ切るわね。さよなら」
受話器からは、ツーツーツーツーと、冷たい音が鳴っていた。しばらく呆然としたが、調停中だから仕方ない、と思った。ばあちゃんにしてみれば、俺自身が石井の家に残ると言えば父さんが親権を取れるのに、母についていくと言ったのがショックなのだろう。ごめんね、ばあちゃん。
調停は、親権のことと、あの女が法外な金額をふっかけた財産分与のことで結構揉めて時間がかかっていた。でも途中で、あの女はいった。
「なんかさ、田上の嫁はさっさと終わらせようとしてるみたいなんだよね。あいつに自由な時間作るとすぐ女作ってヤバいから、こっちが先に離婚成立させなきゃ。もうここら辺で手を打つか!にゃと、そろそろ引っ越しの準備始めて。この家は売っ払う!」
売っ払う。
父さんが無理して頑張ってこの家を買った時、どんなにはしゃいで友人を呼びまくってパーティーしてたか。そうだ、テレビ番組に取り上げられて大はしゃぎした事もあった。幸せな日々だったじゃないか。てめーはやりたい放題で、家事もしないで遊んでばっかり。その延長で、いかがわしい出会い系サイトで男作るのにハマって、父さんを裏切って。一体何人の男と寝たよ?父さんの出張を狙ってこの家に連れ込んだことも何度もあった。俺は子供だったから当時は何度もごまかされたけど、今はわかる。あの臭いおっさんもあの薄汚れた身なりのおっさんも、みんなてめーとヤルためにこの家に居たんだ。仕事の打ち合わせでとかなんとか、取り繕ってたけど、あいつらの独特のニオイは、女抱いた後のオトコのニオイだった。そう、今ならわかる。
母という名のくそビッチは、かなり有利な条件で、離婚を成立させた。
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