第52話 受験

そうして離婚が成立した。10月だった。

母は家庭裁判所へ何度か行って、泣きはらした目で帰ってきては「あたしって演技力あるわー。美人だし女優になるべきだったマジで」などとほざいていた。泣き落としで味方を増やし、偽造ともいえる証拠写真で決定打を打ったようだ。俺の親権も勝ち取り、慰謝料も高額で合意となった。慰謝料については、父さんが払いたい、高額で構わないと言ったそうだ。俺にとっては血の繋がらない父さんと俺を結ぶ唯一の絆になるわけだから、高額でなくても会いに行く理由になりさえすればよかった。もっとも父さんは俺を本当の息子だと信じているからこその対応だろうけれど。


離婚が成立するとすぐに、それまではコソコソと会っては家電や家具を見に行っていた田上と母は、大っぴらに近所を腕を組んで歩くようになった。母には世間の目など関係ないらしかった。田上は、やつにとっては縁もゆかりもないこの地域の「目」が、どんな風に自分を見ているのか分からないようだった。人の目が気にならない奴もいるもんだ。人の感情がわからない、理解できない、気にもならない、、、この二人の傍若無人さに、呆れ果てた近所の人たちは、二人を完全に無視していた。もちろん表面的には笑顔で挨拶などをして、すぐ裏ではあからさまに噂話をしていた。そりゃそうだ。俺だって悪口を言えるもんなら全てをぶちまけたい。こいつらの鬼畜ぶりは、目に余る。


当然、春までは地元の中学に通ってた俺は、友人達から避けられるようになり罵声を浴びせられたこともある。お前の母ちゃんビッチだなあ、新しいパパは体デカくてセックスがたまらんから乗り換えました〜ってか!と言われた時は、そうなんだよあのくそビッチがさあ、と、思わず激しく同意しそうになった。

そうだ、春までは、俺はそんな怒涛の日々の最中にいて、まだ中学生だった。受験は?もちろん玉砕した。俺の父さんやじいちゃんと同じ学校に行くという夢は脆くも崩れ去った。いや、この家庭の状況で、偏差値60の学校に行ける子供がいるなら教えて欲しい。結局俺は、県立の、一番偏差値の低い普通高校に通っている。


春に受験に失敗して、高校生になった。確か年明けくらいから離婚調停が何度かあって、両親は弁護士を挟んでいろいろ揉めていて、10月にやっと離婚成立となった。

こうして俺は、夢も家族も失った。

これが今年の俺の、人生の流れだった。

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