第50話 田上との会食
「よお、なおと、久しぶり」
タバコのヤニで汚れた、歯並びの悪い口元の、やたら背の高いおっさん。こいつにはいい思い出が全くない。少し前までの俺は、母親に嫌だと言えず、言うなりにこいつと旅行したりカラオケ行ったり食事に行ったりしていた。虫唾が走る。こいつの笑顔には。
母は、まるでもともと夫婦だったかのように振る舞う。渋谷で、二人の行きつけだと言う寿司店に入るとマスターがニヤリと笑った。
「みほちゃん、おめでとう!ついに離婚して田上さんと再婚だって?やりましたなあ〜」
「もーうるさい!早くあれ食べさせてよ。あ、これ、あたしの息子。直人。これからは田上の息子になるからよろしく」
「こんなでかい息子いたのか。直人くん?よろしくね」
「あ、、、はい」
飲み物を注文するとすぐに、母は化粧直しにたった。今夜はとにかく気合いが入っている。
「まあ、そーゆーことになったから。これからよろしくな、直人」
と、田上は言った。
「あ、俺は別に、関係ないっすから、好きにしてください」
「学校は、変わりたくないなら、そうできるようにするよ。家は、引っ越しだ。たのむな」
「よく、俺の父さんの地元であるM市へ、来れますね?」、、、喉まで言葉が出かかった。でも黙った。こいつは金だ。金。人間じゃない。
席に戻ると母は嬉しそうに不動産のチラシを見せながら、はしゃいでいる。
父さんとの離婚は、まだ成立していない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます