第48話 吐露
それから俺は、今まで誰にも話せずに抱えてきた秘密を、思いを、怒りを、苦しみを、泣きながらひたすら理沙子さんに話した。
理沙子さんにとったら聞きたくもない話ばかりだったはずだ。今なら、それがわかる。でもあの頃の俺は、自分がこの世で一番傷ついた哀れな人間だとしか思えなかった。子供だった。
話す俺を、ただじっと見つめて、ただただ、聞いてくれていた。こんな経験は初めてだった。父さんにもし、秘密を持つことがなかったら、こうやって話せていたら、何かが変わっていたのだろうか。結局こんな悲しいカタチで離れ離れになるくらいなら、いっそ最初から、俺が母の不倫に気がついた直後に、父さんに話して仕舞えばよかった。きっと、父さんも、理沙子さんのように優しい眼差しで聞いて、俺を救ってくれたかもしれなかったのに。
俺がひとしきり話終わり泣き止むのを待って、理沙子さんは言った。
「まだ中学生なのに本当に大変な日々だったね。よく乗り越えてきたね。でも残念ながらまだ君の試練は続くと思うよ。君はどうしたい?アノヒト、君の母親と離れて暮らすには、進学は諦めて就職しないといけない。でも世間は中卒の人に甘くはないよ。」
「俺、父さんと、同じ高校に行きたいんです。じいちゃんも、同じ学校で、俺も、、、」
言いかけてやめた。
父さんは父さんじゃなく、じいちゃんはじいちゃんじゃない。俺は石井の人間じゃない。また後頭部が殴られたみたいにずきんとした。それを察したように理沙子さんがいった。
「夢は叶えなくちゃ。当然高校へは行きたいよね?なら、親は必要。だから君は、アノヒトのところへ戻らなくちゃいけない」
呼吸が荒くなるのを感じた。息が苦しい。無理だ。嫌だ。
「落ち着いて。これからずっと、君が大人になって自立するまで、君はずっと苦しいんだよ。ここで弱っててどうするの」
確かにそうだ。
俺は冷静になろうと決めた。
「私ね、田上とアノヒト、再婚すると思う。君の母親だから失礼だったらごめんね、でもアノヒトは離婚したところで経済力が全くないでしょ?そもそも出会い系サイトで、男なら誰でもよかった、たまたま会った田上が自営業で時間もお金も自由でそこそこ稼いでいたからこそ長い付き合いになって、ついに子供まで作ったけど、田上に言われて堕した。その後私が家を出て、田上は離婚した。こうなったらアノヒトのする事は一つ。田上を堕胎のことで脅してでも籍を入れるわね。それしか食べていく方法がないもの。」
俺はこの人の洞察力に驚いた。
なんで会ったこともないはずのあの女のことがこんなにわかるんだろう。そう、おっしゃる通りの事を必死で画策してました、あの女は。
「私も2人がよりを戻す前に双方から慰謝料を取ったのよ。急がないとアノヒトが動いて田上がおちるまで、そう時間はないと思う。弱い人間同士、すぐにくっつくわ。君も、そうなると覚悟して、家に帰るのよ」
、、、
「理沙子さん、つまり俺、田上の息子にされるんですかね?」
「でしょうね。たいへんね。あの男は、家族となると暴力暴言すごいのよ。私もずいぶん苦労したわ。いい?自分を見失わない事。一人になれる部屋を用意させなさい。できればドアに鍵をつけなさい。そして、田上の前ではいい子供を演じ切りなさい。君の家族を、君の人生を、ぶち壊したやつに、君の体まで暴力振るわれる事はないわ。」
「わかりました。でも俺、一緒に暮らすなんて、考えただけで吐き気がします」
「お金だと思いなさい」
「え?」
「あなたが大学を出るまでのATMだと考えなさい。そうすれば殺したい気持ちも抑えられるわ」
殺したい、、、
殺したい、、、
僕の殺意はやっぱり田上には向かわなかった。
完全に、あの女に、自分の母親に全ての殺意のベクトルが向かっていた。
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