第40話  証拠

機嫌が良かった。本当に、別人のように機嫌が良かった。母はこう言った。

「やっと尻尾掴んでやったわ!あと一回証拠取れたら、あたしの勝ち。あと少しだ」


そう言って母は、僕に郵便屋が持ってくるはずの内容証明というものを絶対お前が受け取れと何度も何度も言って出かけて行った。


夕方、ケンタッキーの大きな箱を抱えて帰ってきて、めずらしくキッチンに立ち、買ってきたカット野菜を大皿に盛り、ドレッシングをドバドバかけてテーブルに並べた。


「ただいまー!腹減ったわ。なんか食べられるものあるかな?」

父さんが帰ると、母はめずらしく笑顔で出迎えた。

「お帰り。今日仕事早く終わったから、サラダだけなんとか作ったよ。あとはケンタでごめん。さ、食べよう」

そのわざとらしい笑顔には吐き気がしたが、その母を見て嬉しそうな父さんを見ると、僕は家族3人で食卓を囲める嬉しさでいっぱいになって、いつもより勢いよくチキンにかぶりついていた。

3人での食事は、僕にとっては何より嬉しく、空々しい母の笑い声すら、今までの全てを忘れてしまうほど温かく感じた。


そういえば、証拠、って、いったいなんのことなんだろう、、、


ふと思ったが、もう考えたくなかった。

今はただ、3人でたわいもないお喋りをしながらただ、ただ食事をし続けていたかった。

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