第38話 陰鬱な光

「何やってんだよ!すぐ帰ってこいよ!」


やっと電話に出た母を怒鳴りつけた。

滅多に大声など出さない僕が怒鳴ったので母は慌てた様子ですぐに戻った。

家に入ってきた母の目の下は真っ黒なクマができ、瞳孔が開いてぎょろついた目は更にギラギラと陰鬱な光を宿していた。僕と目も合わさずに、そのまま自分の部屋へと消えた。

直後に父さんが風呂から出てきた。


「さっぱりしたわー!直人!飲み直すか!」

「ほどほどにしとけよ!あーさっき母さん帰ったよ。やっぱ調子悪そうだった。もう寝るって」

「おお、そっか。あいつが元気ないなんて珍しいな。ま、明日の朝はけろっとしてるだろ」


いや、父さんあの女にはもう二度と、けろっとなんてして欲しくない。一生自分の犯した罪を抱えて苦悩の中でもがき苦しめ!


っと、実の母親に対して思ってしまう僕は、悪魔なんだろうか?


いっそ母を殺して僕も死ねたら、この善良な愛すべき父さんやおじいちゃん達を苦しめずに済むのに。そういえばあんたも共犯だ、とあの女は言ったことがあった。僕は共犯?なぜ?あの2人と一緒に旅をしたから?カラオケしたから?食事したから?それら全てを父さんに黙っているから?


僕は最近ひどい頭痛に悩まされている。

でも誰にも言ってない。

言ったら原因を聞かれてしまう。

父さんにだけは、僕がどうしようもない、臆病で卑怯な人間だと、バレたくなかった。


あたまが、割れそうに、痛かった。

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