第35話 穏やかな正月

僕の心がこんなにも穏やかなのはいつぶりだろう?父さんがリビングにいる。母がキッチンに立っている。こんな当たり前の光景が、僕にとってはこの上なく幸せな情景だ。油断すると涙が出そうになるので、必死でゲームに没頭していた。

年初の食事。家族3人でテーブルを囲んだ。


「あけましておめでとう」

「あけましておめでとう。実は、いい報告なんだ。正月休みが明けたら、この家に戻れる事になった。向こうの支店は閉じる事になってね。また東京に、配属されたよ。単身赴任はもう、終わりだ」

「ほんと?父さん、よかった!本当に良かったよ!」

「直人が喜んでくれるなんて嬉しいな。父さんお前に嫌われてると思ってた」

「え?は???んなわけねーじゃん、べ、別になんとも思ってねーけどさあー」

「あはははは。だよな!あ、お年玉、これ、直人、お年玉だ。しばらく会えなかった分も足してある。無駄遣いすんなよ」

「ありがとう父さん!」

「これは母さんに。会社が倒産の危機だったとはいえ、連絡もまともにできないような生活ですまなかった。俺、この単身赴任で料理とか洗濯とか、1人でやってたから上手くなってさ、これからは家事も手伝うよ。お前もこれからもっと好きなことしていいからな」

「ありがとう」


父さん、謝ることなんか何1つないんだ。

この女は、ずっと、好きなことしかしてないんだよ。


それから3人でゲームをした。

何年かぶりに心から楽しい、と感じた。

明日は祖父母の家にみんなで行く事になって、早めに寝た。明け方目が覚めて水を飲みに行った。


リビングのソファには母がいて、相変わらず泣きながら携帯をいじっていた。

「にゃとどうしよう。あいつと全然連絡取れない。既読もつかないよ」

「、、、いい加減にしろよ。ちょうどいいタイミングじゃん。忘れろよ」

「だめだよ。やばいよ。バレたらどうしよう。弁護士とか困るよ。やばい、、、」

「知るかよ」

「にゃと!あんた共犯なんだからね!バレたら困るのは私だけじゃないんだから協力して!」

「は?何言ってんの?自業自得だろ!」


僕にはまだ、母の言っていることの意味がわかるわけもなかった。

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