第28話 秘密

実は中二の夏に僕は誰にも内緒である事をした。母と田上の電話の内容から、僕はある情報を掴んだ。それは、田上の妻、理沙子の事だった。


理沙子という人の職業は心理カウンセラーで、公立学校などでも多く仕事をしているらしい。職場の最寄駅も聞き出した。


「本気であんたの嫁に直談判するわ。マメおろしたら一緒に住む場所作る約束でしょ?早くマンション借りてよ!私はにゃとのために離婚はしないからあんたも離婚はしなくていいけどさあ、別居はしろよ。あの女とあんたが一緒に暮らしてるのが許せないんだよ!とっとと家売れよ!別居しろ!」

「はあ?何言ってんだよ!またあばら折ってやろーか?息できない?知らねーよ!私はその何倍も痛い思いしたんだから!マメはもっとだよ!」

「私は本気だよ?バラすよ?こないだもさ、あの女の職場がある○○駅のスタバ行ったんだよ。そしたら偶然あんたの嫁のこと褒めてるおばちゃん達がいたからさ、思いっきり悪口吹き込んでやったわ!あの女、今度あの近くの小学校で道徳の先生やるんだってよ!その授業に乗り込んでいってやろーか?この女の夫は不道徳な不倫男だって!」

「だから!あんたに私がやること止める権利あるわけ?無いよねえ?これ以上嫁に近づくな?なら早く部屋借りろよ!こないだ見たとこでもういいからさ!契約してこいよ!」


母がしようとしていることに興味はなかった。僕はなぜか、どうしても、その、理沙子という人に会いたかった。会えなくても、なぜか、一目見たくてたまらなかった。

調べてみたら、その駅まではさほど遠くなかった。自転車で直線的に進めば1時間くらいで着ける。


僕は、なぜか夏の終わりのとても暑い日の午後、自転車のペダルを漕ぎ出していた。

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