第27話 夏の終わり
手術をしてきたんだろう、母はその夏ひどく体調が悪そうだった。あんなに家に居着かなかったくせに、この夏は日中ほとんど出かけなかった。ただ、早朝から起きていたり深夜にコンビニ、といってふらっと出て行ったりしていた。一度友達と夏祭りの帰り道で母に遭遇した事がある。母は泣きながら大声で怒鳴っていて、僕は友達が僕の親だと気がつく前にその場を素早く立ち去った。
父さんは、その夏、ほとんど家に帰らなくなった。母と話しているところを見ることもなくなった。母は、いつ寝ているのかと思うくらいいつも起きていて、一日中携帯をいじっている。母は太って、目の下には濃いクマができ、三十過ぎても可愛くてモテるんだから!と言っていた何年か前の面影はもうなかった。殺した子どもを〝マメ〟と呼んでいて、マメのことで田上に電話をかけては怒鳴ったり暴れたり物を壊したりしていた。
僕はそんな様子に耐えられなくなって、可愛がってくれていた父方の祖父母の家に入り浸った。幸い大きな家で、僕が専用で使える部屋もあったので、出来るだけあの母のいる家に帰らないようにした。きっと父さんも同じ気持ちなんだろうな、と思ったが、父さんがどこに寝泊まりしているのかは分からなかった。おばあちゃんは、父さんは会社に泊まり込みが増えたのよ、と言った。
夏の終わり頃、学校が始まるので仕方なく家に戻ると、家が片付いていた。というより、いくつか、家具がなくなっていた。捨てた、と母はいった。断捨離した、と。
僕は深く考えないことにした。
学校が始まればもう母の様子を見なくて済むんだ。もういなくなってくれたらいいのに。
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