第22話 性癖

母の故郷愛媛は温暖で食べ物も美味しく素晴らしい所だと父さんから聞いた。でも僕らは家族で行ったことがない。母は僕が生まれてから一度も、愛媛へは帰っていなかった。だから僕は母がどんな風に育ったのか、母方の祖父母の顔も知らずに育った。


「お前の実家寄ろうぜ」

「は?」

「あと湯布院だけだろ行きたがってたところ」

「バカじゃない、絶対無理。愛媛入ったら殺す」

「お前なんでそんな嫌なわけ?子供時代なんかあった?」

「直人の前では話せない」

「寝てるよ。見ろよ」

田上はバックミラー越しに後部座席の僕をチラッとみていった。


「今朝も調子悪いって言ってたぞ。お前もう少しこいつに関心持ってやれよ」

「なに言ってんの?私とにゃとはずっと恋人同士みたいに仲良しなんだからね!」

「お前の人形だろ?コスプレさせてテーマパーク連れ歩いて。でももうこいつ、風呂で見たけど髭もあっちの毛も生えてきてるもんなあ。もうお前のおもちゃじゃいてくれないわ。それで男漁りとはねえ」

「あんたに言われたくないんだよ。あのサイトで何人やった?」

「数えれるわけねーだろ!でもお前には負けると思うわ」

「私はそんなに多くないよ!」

「またまた。今更なに?俺にそんな嘘通用するかよ」

「お互い様」

2人は下品に笑った。


僕はこの数日で少し大人になったみたいだ。2人の下品な会話を聞いても心が動じなくなった。僕はきっと大人になって、強くなったんだ。母が何人の男とセックスしているとしても僕には関係ない。僕はもう傷つかない。


「で?子供時代なにがあったよ。直人寝てるからいいじゃん教えろよ」

「んー。私って顔、可愛いからさあ。田舎じゃ目立っててさ。小6で近所の中学生たちにレイプされて、親がそのことわめき散らして近所中にバレたんだよね。それからなんか父親暴力ふるうようになってさあ。汚らわしいってよく言われたなあ。学校ではもちろんハブられてて、あー、担任にもヤられた事あった。そん時、黙っててやるから金よこせって言ったらさ、結構くれて」

「マジかよ?お前かわいそーな。ぶはははは」

「はあ?今笑うとこ?」

「だからお前あーゆープレイ好きなんじゃん。ふつうじゃないと思ったわ。俺にとっちゃすげーいい子供時代、な。」

「それで立場がある大人とヤれば金もらえるってわかって、10人とやって50万ためてさ。中学生とヤレるっておっさんたち夢中になってた。売女とかビッチとか言われてもなんとも思わなかったし、むしろ燃えちゃってさあ。あーこんな話ししてたらヤリたくなっちゃったじゃん」

「口でしろよ」

「いま?直人が」

「いいからヤレよ」

田上は母の頭をでっかい左手で鷲掴みにして運転席のハンドルの下に押し付けた。


車の屋根はあいていた。僕の乗った小さい黒いその外車は、運転席のでかい男が発するでかいうめき声を響かせながら、湯布院への山道を走り続けていた。

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