第20話 母と間男
昼の高級寿司に続いて夜は馬刺しとか郷土料理を食べさせられた。田上と母はとにかく酒を飲んで美味い美味いと言っていたけど、僕はトイレに行った時、その店のおばあさんママに言われた。
「あんた達はなんなの?田上さんの奥さんは?今回は一緒じゃないの?」
僕はかなり歳とったそのおばあさんの話がわからないフリをした。この田上という下衆男は、普段奥さんと来ている店に平気で僕らを連れてきてるのだ。僕が返事をしなかったから、おばあさんママさんは大きな声で、隣席の地元客と盛り上がっていた田上と母にこう言った。
「ねえ、田上さん!奥さんは?なんで今日は一緒じゃないの?会いたかったよお。ほんとはあんたに出す料理なんてうちにはないんだよ!奥さんとのご縁で、この値段でやらしてもらってんだからねえ」
すると、酔った母が立ち上がって怒鳴った。
「うるせーなばばあ!今はこの私が田上の妻なんだよ!値引き?必要ないよ!倍払ってやるからもっとうまいもんだしなよ!もういっぺんこの人の奥さんのこと口に出してみな!こんな店放火してやるから!」
ママが、大きな丼の水を母に向かってぶちまけたのと、田上が右腕を大きくあげて母の頬をぶんなぐったのは、ほぼ同時だった。
「てめー何つけあがってんだよ!この売女!」田上が怒鳴ると「こんな下衆な女を二度と連れてくんじゃないよ!あんたも地に落ちたもんだね!」とおばあさんママ。
「すみませんでした。仕事の関係で」とたがみはおばあさんママに言った。「だとしても趣味が悪すぎる。うちは困ってないんで、二度とあんた、来ないでもらえるかい?」とおばあさんママは言った。「本当にすみませんでした。この事は妻には」「言えないような女を私んとこに連れてくんな。私も舐められたもんだよ。悪いけど金輪際、あんたの顔は見たくないね。さよなら」
隣席だった地元客は、消防士だった。体の屈強な田上だが、3人がかりで店の外へ放り出された。抵抗して叫んでいた母に、一番若い男が売女!と呟いて道路にほおりつけた。母は転んで、怪我した痛い!いったあーい!と叫び続けた。田上が立ち上がると、僕にこう言って、鍵を投げつけてきた。
「直人、お前、宿わかるだろ?戻ってさっさと寝てろ!」
僕は今起きたことがものすごく怖くて怖くて、投げられた鍵をひっつかんで宿に向けて猛ダッシュした。結構走ったところで女の悲鳴が聞こえた。思わず振り向くと、太い道路を渡った向こう側で、田上が、母を殴っていた。何度も何度も。母も、田上を殴っていた。何度も。何度も。田上が母の首根っこを掴んで海側の草むらへ引きずって行く。悲鳴をあげながら引きずられて行く母を、僕は、空っぽな気持ちで見ていた。二人の姿が草むらに消えたので、僕は、宿に向かって本気で走った。
部屋に戻るときちんと、三組の布団が並べて敷かれていた。僕は一番ハジのそれに飛び込んで、すぐに眠りに落ちた。
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