第17話 嫉妬の塊

車が動き出しても母はとにかく不機嫌だった。動き出すなり無言で屋根が開くボタンを押した。田上が慌てて窓から手を外し、挟まれるかと思った、と大声を出した。


「なんでよなんであの女に電話したのよ!この旅行中は絶対やめてほしいんですけど」

「は?何言ってんの?お前にとやかく言われたくねえよ」

「バラすよ。私、嫁に電話するよ。自宅の電話知ってんだからね」

「じゃあ俺もバラすぞ。直人も一緒だってな!」


屋根が開いていくのに2人は大声で喧嘩を始めた。僕は恥ずかしくて小さくなった。男たちがこっちを指差していやらしい笑い声をあげた。驚いて見ると、船の整備員の制服を着た4人が、助手席の母を見ながらニヤニヤしながらざわついていた。母はそれどころではないらしく、田上にくどくどと〝嫁〟の話をしている。あいつら、あの時車の周りにいた、あいつらじゃないか!船の従業員だったのか。ああ、あれは、僕の悪夢じゃなかったんだ。現に今、母を見て、冷ややかな笑いを浮かべながら行ってらっしゃい、ありがとうございました、と彼らは手を振っている。


その時の男たちのいやらしい視線に気が付きもしないほど、母の嫉妬の炎は燃え盛っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る