第7話 間男

「はじめまして。田上です。よろしくね。旅行、楽しもうね!」

そのでかいおっさんは言った。身長がすごく高くて、クラスでちょうど真ん中くらいの僕にはとてもかなわない相手のように思えた。はあ、と答えると母がすかさず「にゃとはおとなしい子だから。ごめんねえ」と言った。

タバコのヤニのついた歯が、気になって仕方なくて、僕はそのおっさんの顔を見ないようにつとめていた。いや、僕に一体、どうしろっていうんだ。頭がいたい。割れそうにいたい。


今朝のことだ。九州だというから飛行機に乗るもんだとばかり思っていたら、母はある駅で僕を電車から引き摺り下ろしてこう言った。

「母さんの友達も一緒に旅行する事になったからね。お金持ってる人だから、美味しいもの食べさせてもらえるよ!やったね!欲しいものとかあったらその人に言えばいいからね。すごい車で行くんだよー!にゃと!よかったね!」

後頭部をハンマーで殴られたような気持ちだった。案の定、改札を出たときこちらに手を振ってきたのは、その、田上とかいうおっさんだった。母は、父さんの代わりに、愛人と、旅行する気だ。僕を連れて。


頭が、割れそうに、痛かった。

もう何も、考えられなくなった。

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