クレープ食べたい

みのあおば

クレープ食べたい

 中学二年の春。天気は晴れ。今日の授業はすべて終わって、放課後がやって来た。

「ねえハルカー、今日どっか寄って帰ろうよー」

 ハルカというのは私の名前。この子はクラスメイトのアヤカ。去年同じクラスになってから、毎日一緒に帰る仲なのだ。

「いいねーどこ行く? あ、そうだ。最近できたクレープ屋さんとかどう?」

「クレープ! いいね、あたしもちょうどクレープ食べたいなって思ってたの!」

「うん、じゃあ行こー」

 そう言って私たちは教室を後にした。


 クレープ屋は混んでいたけど、大して並ぶ必要もなく席に座ることができた。

「あーハルカ、フローズンストロベリー生クリーム? いいなーおいしそうー」

「アヤカのだっておいしそうじゃーん。わ、このストロベリー甘ーい」

「いいな~ストロベリー」

 正直言って食べにくそうなこのスイーツ天国を、いかにきれいに食べられるかっていうことをこの機会に練習しておくことで、いつか誰か男の子と食べる日が来たときに恥をかかないで済むかもしれない。そんなことに意識を向けながら、アヤカとの会話も楽しむ。

 ここで一つ聞いてみる。

「そう言えばどうしてクレープ食べに来たんだっけ」

「どうしてって、ハルカが自分から行こうって言いだしたんでしょ」

「あ、そうだった。それで、アヤカもちょうど食べたいからって言って……」

「そうだよそうだよ」

 そう言って笑い合いながら、私たちは周りの様子を眺めてみる。テラス席に座った私たちの周りには、同じような女子中高生たちがたくさんいる。みんなおしゃべりに花を咲かせていて、まさに青春って感じだ。この人たちも、「放課後どっか寄らなーい」とか言って、仲のいい友達同士でやって来ているんだろうか。でも考えてみたら、クラスにはそういう友だちのいない子とかもいるわけで、そういう子たちっていうのはたぶんこういうお店に来ることもあんまりなくて、一人でまっすぐ家に帰ったりしてるのかな。そう考えてみると、私は結構うまく行ってる方なのかなって思う。別に友だちとクレープ食べてるからってこの先の人生がうまく行くって決まったわけじゃないんだけど、なんか……普通に周りのみんなみたいに青春できてるってことは、少なくとも今の段階では私の毎日はいい感じなんだって、そう、安心できる。


 生クリームをつつきながら、私は話を切り出す。

「私ね、放課後友だちとクレープ食べに行く、っていうのにずっと憧れてたんだ。だから今なんか、すごく嬉しい」

「あーそれ分かるー、ていうかそれあたしも! 小学生の頃から、いつか中学生になったら友だちとカラオケ行って、クレープ食べて、映画見に行って……っていろいろ考えながらわくわくしてた」

「えー私も! すごいね! 偶然だね!」

「ねーすごいね! まったく同じこと考えてるんだね!」

 そう言って私たちは笑い合った。


 今日は本当に楽しかった。また来られるといいな。

「じゃあね、アヤカ。また来ようね」

「うん、それじゃあね、ハルカ。バイバーイ」

 そう言って私たちはそれぞれの帰路についた。


 家の玄関の扉を開けて、靴を揃えて家に上がり、リビングへと向かう。

「ただいまー」

「お帰りー、お姉ちゃん」

 リビングに入ると、妹のナナミがソファの上に横になって何かマンガを読んでいる。ああ、少女マンガか、懐かしー。そう言えば最近読んでないなー。

 一応聞いてみる。

「何読んでるの?」

「え? マンガだよ? 最近クラスで流行ってるの」

 妹は小学六年生で、流行りとかには比較的さといタイプの子だ。机の上に積まれたマンガのうちひとつを手に取る。

「ナナミ、これちょっと見てもいい?」

「あーうん。でもそれ二巻だけどいいの?」

「別にいいよー」

 ページをパラパラとめくってみる。……なるほどねー、主人公は高校生になってしばらく経って、友だちとも仲良くなり始めた頃か。ふーん、お昼は一緒にお弁当食べて、放課後はゲームセンターに行って、それからクレープ食べに行って……。

「ねえちょっと、これ見てどう思う?」

 私は今開いているページを妹に見せる。

「あー! ナナミまだ二巻読んでないんだから見せないでよー。……それで何? 友だちとクレープ食べてるシーン? ここがなんかおかしいの?」

「いやおかしいってことじゃなくて、こういう放課後友だちと一緒にクレープ食べる、みたいなのってどう思う? ってこと」

「あー! ナナミそういうの絶対やりたい! 中学に入ったらー、友だちとクレープ食べて、パフェ食べて、夏祭りではリンゴ飴食べて、誕生日にはタコ焼きパーティするの!」

「もう、食べてばっかり!」

「えへへ。あーでもね、ちょっと心配なのがね、中学に上がったときに本当に友だちできるのかなーってことと、ナナミがしたいと思ってることをみんなは別にしたいと思ってないんじゃないかなってこと。大丈夫かなー」

「あーそれはナナミなら大丈夫よきっと、すぐに友だちもできるだろうから。それに、そのマンガって割と流行ってるんでしょ?」

「うん、女子なら大体みんな知ってると思う」

「それならもう心配することはないかな。たぶんナナミの世代の女子はみんな、放課後友だちとクレープ食べに行きたいと思ってるだろうから」

「えー、そんなこと信じらんなーい」

「いや、本当よ」

 そう。本当なのだ。少女たちは間違いなく放課後あの場所に行き、そして互いの思いを打ち明け合う。そうして喜びいっぱいにこう言い合うのだ。


 すごいねー、まったく同じこと考えてるんだねー!


と。


おわり



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