第3話:もしかしたら

「くそっ!」


 暴れ回るが周りの用具を倒すだけ。何かに固定されたような首の感触からして、やっぱり絞められてるのは間違いなさそうだ。


 黒くぼやけた人影が覆い被さってくる。直後、また腹を殴られた。

 これどうやって殴ってるんだ? 視界がよくない。全く見えない。


 妙なことならもう1つ。足の固定の仕方が変だ。普通は手みたいに2本を1本にまとめるはずなのに、なぜか2本とも別々に縛られてる。昨日は縛られてる感触はしなかった。でも今みたいに何かが見えたわけじゃない……。


 と言うかこれ、じゃないか? 頭を振った時に髪が顔にかかる……誰か女子だな。ってことは間違いなく……。










「すけ、大輔!」


 涼介の声で現実に戻ってきた。今回は大収穫だったな。


「お前急に白目むいてぶっ倒れるから……具合悪いなら保健室行こう。いや、行くぞ!」


 無理やり腕を引っ張られる。涼介の証言で俺は難なく保健室行きが決定した。保健室の先生は今いないから、涼介もついていろとのこと……ちゃんと授業数には入るみたいだ。俺は入んないけど。


 無理やりベッドに寝かされた。さっきの感触が蘇ってくる。起き上がるとまた寝かされた。起き上がり、寝かされ、起き上がり……。


「お前今日どうした? 朝から変だ……普通の大輔じゃない」


「普通の俺って何だよ」


 コインが見えない俺のことか? それなら昨日からだぜ。そう言ったら涼介は少し食い気味に聞いてきた。


「そうそれ! そのコインってやつ、何なんだよ? 隣のクラスに聞いても何も知らないって言うから気になってたんだ」


 隣のクラスも、か。いよいよ学年全体が知らない可能性が出てきたな。

 俺は事細かに説明した。コインを見つけたこと、何も見えなくなって腹を殴られたこと、武田先生に声をかけられるまで気づかなかったこと。コインは1度使うとみんなにも見えるようになること。


 見たものが、誰かの記憶だとわかったこと。


「黒で長い髪だ。女子。誰がいる?」


「んー、うちの高校茶髪禁止だからな。長さはどんくらいだ?」


「肩よりは……いや、肩くらいか? 頭振った時に口に入った」


「ならセミロングだな。結構いるぜ? 結んでるのも含めるとかなりの数だな」


 セミロング……うちのクラスだと三上みかみさんとか百合谷ゆりやさんか? 有名どころしか知らない自分に嫌気がさす。ほんと、涼介がいて助かった。


「殴られたってどこをだ? アザの形とかサイズで何で殴られたとかわかるだろ」


「それが……」


 俺の腹にアザがないことを伝えると、涼介は顔をしかめた。俺に伝えるかどうか迷ってる顔だ。こいつはすーぐ顔に出るからな。


「何でもいい。今は情報が欲しいんだ。頼れるのはお前しかいないしさ。頼むよ」


 それでも渋った涼介は、結構な沈黙の後、ポツンと言った。





「もしかしたら、強姦……レイプかもしれねぇ、って思ったんだよ……」


 その声は、やけに耳の中に響いていた。

 

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