第2話:誰も知らない

「おう。課題大丈夫そうか?」


「おはよ。お前こそ大丈夫? 昨日1人でちゃんと帰れた?」


「お前は俺を何だと思ってんだ?」


 こいつは眞白ましろ涼介りょうすけ。一応中学からの友達だ。

 俺が唯一信頼できると言ってもいい奴だ。情報通だし何か知ってるかもしれない……コインのこと、聞いてみるか。


「なぁ、これに見覚えないか?」


 涼介は俺の手の中のコインをまじまじ見つめて、静かに首を横に振った。


「悪りぃ、知らねぇ。ていうかそんなコイン持つやつなんて滅多にいねえだろ。ハートならまだしも割れてるやつとか。すぐに持ち主見つかると思うぜ? まぁ見てなって」


 そう言うと涼介はコインを掴んで立ち上がり、朝の教室に声を響かせた。


「おーい! 誰かこのコイン落としたやついねぇ? あ、金じゃねぇぞ! 記念メダルっぽいやつ!」


 知らない、知らねぇと一斉に返ってきた。多分教室にいたほぼ全員が返事しただろう。さすが涼介。陽キャは違うな。

 結局誰のものかわからなかった俺と涼介は渋い顔で課題を提出し、授業を受けた……が。


 俺はまともに集中できなかった。


 あのコインは何なんだ? 仮に誰かのものだったならそいつに理由を聞けただろう。これがどんなものなのか。

 でも1つわかったこともある。1度黒くなったコインはもう使えないってことだ。


 俺はもちろん、涼介も、多分その他クラスメイトも。あの妙にリアルな幻覚がもう1度再生されることはない。


 気づけば数学のノートの1ページがコインの考察で埋まっていた。そんで先生に見つかって怒られた。課題も増えた。少しだけど。


 次の授業は体育だ。やば、早く出ないと女子に怒られる……!




+++




「今日の授業はバレーだ! 男子はステージ側、女子は入り口側で行う! 男子は女子の分も準備してやれよ!」


 ぶーたれる男子たちは女子の1睨みでピタッと黙った。力関係がよくわかる。これには武田先生も苦笑するしかない。

 バレーのネットを運びに体育倉庫へ入った時。嫌な光が目に入った。


「また……かよ」


 淡い銅色のコイン。割れたハートの模様。俺の筆箱の中のコインと全く同じ……色は違うけど。

 違うのはコインの色だけじゃない。前とは違い、何が来るかわかってる。俺はまた来るであろう幻覚に対策を打ち立てた。


「涼介ー! ちょっと来てー!」


「どしたん? 虫でも出た?」


「コインだよ。ほら、ボールかごの下あたり」


「……そんなもんないけど?」


 は?


 いやいや、結構な光量だぞ? これが見えないとか目がいかれてるレベルだぞ?


「ここだよ、ここ!」


「いやだから何もねぇって」


 何でだ? 確かに教室ではコインは見えてたはず。ってことはまさか……。


「使わないと見えないのか……?」


「何言ってんだよ。俺もう行くぜ? お前も早く来いよー」


「ま、待って! ならせめて……俺がどうなってるか見ててくれ。多分すぐ終わるから」


 そう言って俺はコインを取る。すぐに背中から叩きつけられたような衝撃。そしてボディブロー。前回と違うのは、俺に意識があることだった。

 また息ができなくなる。霞む視界の中俺が見たものは。





 縛られた手足と、顔にかかるほど長い黒髪だった。

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