・泥沼


 王都の中では先に追撃していたティガ達が物量に苦戦していた。どうやらメルバとガルドを庇って残りの王都軍が決死の時間稼ぎをしているようだ。2人の姿は見えない。


「お待たせー。ちょっと、何してるの?」


「火花のあねさん!すまねぇ。あいつら捨て身で突撃してきやがって時間食っちまった。ってうわぁ!?アリア!?アリアナンデ!?」


「死人の目、黙らせていいかぁ?」


「あーもう喧嘩しない。ティガ、ごめん。やっぱりアリア死なせたくなかった。だから、私のにしちゃった。」


「うわー。マジか。まぁ仲間になるってんならこんなに心強い敵はいねぇわけだからいいか。おっと、そうだ!先に不死隊達と行かせたミシロとミャノンはどこかわからねぇが、メルバとガルドが何故かあそこに見えるでかい建物の方へ行っちまったんだ!」


 足元の死んだ兵士を蹴って退かし、私はダークルージュを構えた。刀身にペルーンの雷を纏わせた。どうやら増援もきているみたい。


「ふーん、あれなんだろ。てか邪魔。どいて。」


 轟音と共に凄まじい落雷が城下町中に直撃し、増援に現れた千人ほどの兵士達はバラバラに砕けた。


「あれ?不死隊のみんなは?」


「あぁ、あいつらはすぐ復活できるから死にながら町中に突撃してったよ。やる気に満ち溢れながら殺しまくってて、今どこにいるのやら」


 よく見ると街のいたるところに長槍で串刺しになって吊るされる兵士や国民がいる。全員綺麗に串刺しと変なポーズをされていて吹き出してしまった。隊長達、元気だなぁ。


「死にながら突撃って、すごいワード。」


「ミャノンはともかく、ミシロは不死じゃないから心配だ。なんでミシロから死を奪わなかったんだ?俺たちからは死を奪ったのに?」


「あら不満?」


 火花のあねさんの冷たい目に俺の背筋は凍った。あの黒いあねさんを倒してから様子がおかしい。けど、あねさんを信じるしかない。


「い、いや。死なねぇってのもいいかもしれねえよ。ロード、仇は討てたんだろ?いいのか?」


「いいわよ。ここまで来た。ここからまた火花様と進んでいくわ」


「へっ、チビが大人ぶりやがって。無理すんなよ?」


「ふん!年増に言われたくないわ!」


「あぁ!?やんのか!」


「やってやるわよ!」


「ふふふ…あはは!静かにして」


「「は、はい」」


「死人の目、お前の仲間はいつもこうなのか。」


「まぁ、だいたいこんな感じ」


「そうか…。いいな。きっと良い旅をしたのだろう。私も、そんな仲間と旅をしたかった。」


「……旅、ね。」


 その頃王都にある大聖堂にメルバとガルドが命からがら走ってきた。


「ヒバナ!ヒバナ!どこにいる!死人の目は予定通り王都に入ってきたぞ!やはり大軍勢だった!作戦を教えてくれ!すぐにブルースに合流したいんだ!」


 大聖堂にガルドの声が響き渡り、木霊する。しかし静寂に二人は焦った。まさか逃げたのか、そう思ったその時である。


「メルバ危ねぇ!」


 柱の影から突如現れた桃色の鎧の火花が注射器をメルバに振り下ろしたのだった。それを庇い、ガルドが注射器を受けてしまった。


「ガルド!?貴様!なにをしたの!」


「作戦その1だよ。知ってるでしょこれ?エレナの血。」


「そ、そんなっ!?」


 メルバは青ざめた。エレナの血は人体に入れれば身体が変異し、強大な力を手にいれられる異形の物。そしてそれは一度人体に入ると抽出はできない。


「ガァァアァァァア!」


 ガルドの雄叫びが大聖堂に響く。メルバが拘束術と治癒魔法を必死にかけて叫んだ。


「なんで!なんでこんなことを!こんな作戦聞いてない!」


 メルバが振り向いた瞬間、首に注射器を刺された。


「言ってないからね。二人でしっかり暴れてきてね?王様はこれで逃げられるかも、ね」


「そ、そん、なっ!嫌!死にたくない!化け物になんてなりたくない!嫌ァァァア!!」


「あっはは!ご健闘を祈るっ!私は作戦その2に行くねー!」


「メルッ…バ…っ!!ぐっああああ!」


 二人は消えゆく意識の中で抱きしめあった。お互い最後を覚悟した。


「ガルド…こんなことになるなら、一緒に逃げればよか」


 そこで二人の意識は完全に途絶えた。


 大聖堂が爆発し、近くまで来ていた火花とティガとロードは絶句した。爆炎の中から巨大な天使が現れたのだ。ゆうに50メートルは超えており、その天使は男と女の上半身が一つの下半身に合体している。


「エレナの…血っ!」


 一気に火花の身体に虫酸が走った。もはや虫酸どころではない。嫌悪、殺意、怒り、軽蔑、全てを通り越した感情が渦巻いていた。そばにいたフェンリルも毛を逆立てて牙をむき出しにする程の嫌悪を感じていた。


「ヴォオオオオオオオ!!」


 その天使とは思えない雄叫びに町中にいた王都の兵士達も気づき戦慄していた。戦闘が一瞬静寂に包まれ、それを打ち破るように天使が敵味方見境なく暴れ始めた。


 町中に悲鳴が響き渡った。その天使は兵士や逃げ遅れた国民を掴み、喰い始めたのだ。幸い復讐の狼達は逃げきれている。


「ぶっ殺す!!!あんなのがいたらこの世界ごと壊される!」


 私はダークルージュに炎と雷を纏わせ天使へ振り下ろした。手加減するつもりもなく全力で振り下ろしたはずが、天使に当たる直前に見えない何かに弾かれるように消されてしまった。


「なっ!?なに!?」


「火花様!多分あれ魔法防壁じゃないかしら!」


 ロードが指差した場所、天使の足元には崩れた大聖堂があり、魔法陣が光っていた。


「魔法か!私全然わかんない!アリアは!?」


 アリアは首を横に振った。


「さっぱりだぁ」


「ミシロちゃんは!?ミシロちゃんを呼んで!ここは私が時間を」


「いや、火花のあねさん!ここは俺に任せてくれ!あいつがもし時間稼ぎの囮ならブルーサファイアに王都の軍隊や人間が逃げちまう!」


「たしかに。ティガ、できる?」


「へへっ!俺を誰だと思ってるんだよ!」


 ティガは不死鳥のような鎧を下半身に纏わせ浮き上がる。


「ご主人様!我らもティガ様にご助力させて頂きたい!」


 ちょうどそこにチェルノボウグ不死隊のみんなも合流した。何人殺してきたのか返り血だらけになっている。


「隊長、みんな!任せたよ!ロードはミシロちゃんとミャノンを探して!私とアリアは城を目指す!」


「任せなっ!」


 続く。


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