第32話「侵攻」

 

 火花と復讐の狼、不死隊達は王都を囲む草原を進軍していく。その黒い波の後方ではフェンリルに乗った火花がダークルージュを掲げて高らかと笑っている。


「あっはっはっは!さぁ皆殺しだ!」


 もはやそれは衝突というより蹂躙(じゅうりん)であった。突撃してきた王都の軍勢は総崩れし、ただ無惨にも殺されていく。そんな中、勇者達が火花達に肉薄した。


そこへ切り抜けてきた敵がいた。


「ハァッ!ハァッ!そこまでだ死人の目ヒバナ!なんという悍ましい姿か…。まさに魔王にでもなったつもりか!」


「おー、勇者ブルースじゃん。よくここまで来れたね?無事じゃないみたいだけれど」


 すでにブルースも他の仲間も満身創痍。息も切れ切れで相手にならないのは目に見えていた。だけど私は手加減するつもりはない。


「さて、決着をつけようか。他のみんなは手出し無用よ。ティガ、ミャノン、ミシロは先に王都の魔法を止めに行きなさい。ロードは私とここに残って。」


 ダークルージュに炎を全力で纏い、構えた。


「メルバ!ガルド!二人はあいつらを追うんだ!ここは俺に任せてくれ!」


 ブルースと他の仲間が目を合わせて頷くのが見えた。何か企んでいるみたい。


「戦う前に一つ教えて?あ、やっぱ二つ。もう一人の私見なかった?ピンク色の鎧着てるらしいけど」


「フッ、貴様が会うことはない!ここで必ず滅ぼす!」


 凄まじい炎を物ともせずブルースは私へ剣を振り下ろしてきた。片手で振った剣なんて軽く受け止めるつもりだったけれど、予想以上に力があり一瞬押し込まれる。


「へぇ、意外と元気。もう一つ!この王国の神罰部隊、アリア・デルセンを知ってる?」


「あぁ!なんでアリアのことを!」


「アリアを不死にして苦しませていたのは…誰?」


「そんなことを知ってどうする!アリアをどうした!」


 勇者の突きを避け、蹴り飛ばす。


「答えてくれたら進軍やめてあげるかもよ?」


「ハッ、そんなことでこの戦争を止めるつもりなどないだろう。だが、俺が知っているのは少しだけだ。アリアは昔、国王直属の部下だったという。おそらく国王のもとで…」


「やーっぱりここの国王はクズみたいねぇ。ねぇブルース、知ってる?私ってすごく欲張りみたいでさ、欲しいものがあると我慢できないんだ」


「なにを…言っている?」


「本当はこんなことするつもりはなかった。けれど、やっぱり彼女の思いは晴らしたほうがいいなって」


 火花の足元から闇が溢れ、その闇に手を入れる。するとロードもブルースも闇の中から火花が引き出した人物に唖然とした。


「おかえり、アリア」


 闇から出てきたのは青白い顔と光を失った赤黒い瞳のアリア・デルセンであった。首には縫い繋げたような跡が残っている。彼女は手を離れると火花に膝をついて頭を下げた。


「我が存在は死人の目のために。どうぞご命令を。」


「ひば、火花様!?アリアは殺したんじゃ!?」


「殺したよ?殺して、内緒で私のにしちゃったっ」


「バッ、バカな!?アリア!俺だ!ブルースだ!」


 ブルースの問いかけにアリアは一切目を合わせない。その瞳はまっすぐに火花の足元を見つめていた。


「うふふ、あはは。いい子いい子。アリア、ブルースを倒しなさい」


「仰せのままに」


 アリアは立ち上がると、凄まじい瞬発力でブルースに接近しノコギリを振り下ろした。ノコギリを受け止めたブルースはその威力に膝をつく。


「ぐぁあっ!アリア!俺だ!思い出せ!」


「思い出せ?忘れてなどいない。死んで逆に全て思い出したのだ。この、復讐心を!」


 アリアはブルースを押し飛ばし、さらに斬りつけていく。


「くっ!アリア!君はそんな人じゃなかった!まっすぐに神を信じ、王都の敵を討つため奔走していた!」


「貴様は勘違いしている。私は本当は、ただ生きていたかった。人並みに生き、人並みに死にたかった。けれど今は違う。死人の目のために私はいるのだぁ!」


「アリアっ、そんな!アリア!」


 ブルースの剣に迷いが見えていた。生前よりも迷いのないアリアの太刀筋に押され、身体中が切り刻まれていく。


 そして数分後には血だらけで息も絶え絶えになったブルースは膝をついた。最後の一太刀でアリアのノコギリは壊れたが、もはやそれ以上の力は無くなったらしく、ブルースは草原へ倒れ込んだ。アリアはそんなブルースを蹴り飛ばし、私の前へ差し出した。


「死人の目、あとはお任せいたします。」


「く……みんな…すまない…」


「はい、お疲れ様。やっぱ強いね。」


 私はブルースの頭を踏みつけ、草原へ押し付ける。そして私はダークルージュでブルースの手と足を切り落とした。


「ぐがぁあっ!」


「はい。ロード、やりなさい」


「えっ…?」


「えっ、て何?貴女をここに残したのは復讐させてあげるためだよ?ほら、スパッとやっちゃいなさいよ」


「こんな…やり方って……」


「復讐にやり方もクソもないよ。貴女のお父さんやお母さんはどんな思いをしたんだろうねぇ?悔しかったろうね。こいつがいなければ、今頃いっしょにいられたかもね?」


「こいつが…いなければ」


「そっ。こいつがぜーんぶ悪いの」


「悪い…お前のせいでぇ!!」


「君は…魔王の娘か……。」


「そうよっ!私の家族の恨み!ここで晴らしてやる!」


 ロードはアクアスラッシュを大きく振りかぶった。


「そうか…俺もまた…復讐心を生んでいただけなのか。」


「死ね!」


「すまなかっ」


 ブルースの首にアクアスラッシュが振り下ろされ、首が跳ね飛んだ。その瞬間、ブルースの身体が光り輝き始めた。


「自爆!?」


 爆発する。そう思いロードが目を伏せるが、何も起きない。恐る恐る目を開くと、そこにはごっそりと削れたように地面ごとブルースの身体は消え去っていた。


「何か企んでると思ったら、自爆なんてね。勇者がそんなことするとは思わなかった。これが狙いか。相討ち狙い…。」


 クラミツハの闇で爆発する体を吸収した。ぶっちゃけできると思わなかったので少し心配だったが、成功してよかった。爆発しても死ぬことはないが、わざわざ食らってやることもないと思ったから。


「ぷひぁ。死ぬことはなくなったとはいえ、少し怖かったわ。火花様、ありがとう」


「いいのいいの。さぁ、ロード。貴女は復讐を遂げたわ。どうする?」


「どうするも何もないわよ。私は火花様と共に。」


知ってる。だって貴女も逆らう意思なんてもう無いんだから。


「うふふ、あはは。わかったわ。さぁ!王都内へ進軍!あ、勇者のこの剣はアリアにあげるわ。思い出にしといて。あと、その壊れたノコギリは捨てちゃいなさい」


「ありがとうございます。」


 そのまま進軍していくと、王都前の巨大な扉がティガ達によって破壊されており、私達は王都内へと侵攻できた。


 次回、桃色の私との戦い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る