・最大の共闘

 

 フェンリルに乗って私とアリアは街を駆け抜け、城へ向かっていた。城門が見えたその時、中から数百人の騎馬兵達が現れた。一目で分かる。外にいた雑兵達とは格が違う。


「わーおマジ?凄い殺す気まんまんじゃん」


「凄まじい眺めだな。私と死人の目の二人にあれだけの兵士を出してくるとは。」


「うふふ、アリアったらビビってるのー?」


 私達は剣を肩にかけて、フェンリルは悠々とその大軍へ向けて歩き出した。不死だから怖くないというのもあるが、私の気持ちはアリアと一緒に戦えるという嬉しさの方が優っていた。


「ハッ、私が死ぬ時ヒンヒン泣いてた奴がなにを言うか。」


「あー、それ言う?本気で悩んだんだからね?そ、れ、に!私が生き返らせなきゃここにいないんだからねっ?今頃砂漠でフンコロガシの餌なんだから!」


 騎馬兵達の轟音が響いてくる。地鳴りを立てて襲いかかるその大軍の目標は、たった二人と獣一匹しかいない敵軍であった。


「生前の私は生きることを望んでないぞ?」


「じゃあ今望んでるってことじゃん。」


「ふっ」


「ぷっ」


「「あははは!」」


「行くよ!アリア!フェンリル!」


「あぁ!行くぞ!」


「グォオオオン!」


 フェンリルは雄叫びをあげると凄まじい速さで駆け出した。フェンリルの背中で私達は剣を掲げて突撃する。


 やっぱり、戦うのって楽しい。


「どぉりゃあああ!!」


「うぉおおおおあ!!」


 王国軍の騎馬兵達は戦慄した。たった二人と獣一匹がまるで竜巻のように兵士達を斬り捨て、吹き飛ばしていくのだ。


「なんてことだ…。あのアリア様まで魔王の傘下になってしまうなんて」


「世界が滅ぶ前に、人間の終わりだ…」


「神は…俺達を見捨てたんだ……」


 怯える騎馬兵達の後ろからもう一人、巨大な槍を持った大男が現れた。


「ええい!なにをしてるか!ここで食い止めねば奥にいる国民が!国王が!そして人間の未来が無くなってしまうのだぞ!」


「タク隊長!なぜ前線へ!?隊長は国王と一緒にブルーサファイアへ行かなければ!」


「あちらには桃色の奴がおる。それに、部下が死ぬ時に一緒に死んでやらねばなにが隊長か。さぁ皆!俺に続けぇえい!!」


「お、オオオオオ!!」


 士気が一気に回復し、隊長を真ん中に隊列を組み直して襲ってきた。


「おっ?なんかさっきと雰囲気変わったね。」


「火花、あれは騎馬隊隊長のタクだ。昔魔王軍幹部の一人を素手で殺した豪傑。強敵だぞ」


「ふーん。こっちは死なないのに挑んでくるんだ。ばかだなぁ、死んでもらお。」


「聞こえるか死人の目!ここから先には行かせん!我らの命に代えても!人間の未来を奪わせはせん!うおおおおお!」


「わーお、これから無様に死ぬのにかっこつけちゃって。おーい!聞こえるー!?今から殺しに行くから首を洗って念仏を唱える暇くらいは…いや、なんか違うな。うーんまぁいいや!ぶっ殺すから!」


 再び騎馬兵達と火花がぶつかり合った。その様子を城から桃色の火花が眺めていた。


「すごいすごい。末妹のくせにやるぅ。さて、ヴェルカンディアス王?ブルーサファイアへ旅立つ準備はできたのかな?」


「転移魔法があと少しで繋がる。そうすればすぐにでも。しかし、ここまで犠牲者が出てしまうとは。街で暴れ狂っているあの巨大な天使は、君が?」


「さぁ…知らないねぇ?でもね王様、犠牲の上に生は成り立つんだよ?私も王様も飯食って生きてるでしょ?それと一緒だよ。さぁて、私もまた準備しなくっちゃ!」


 城の前では火花達と騎馬兵の激戦が繰り広げられていた。増援で来た騎馬兵の防具には炎と雷の防壁が施されているらしく、あまり効果がない。ダークルージュで直接叩き斬るしかない。


「私が炎と雷使うってばれてるみたいだね。なんかむかつく!」


そのころミシロは火花やティガ達と離れ、街の外れまで迷っていた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」


火花への不信感をひたすら人を斬り捨てながら誤魔化して走り回っていたミシロは、剣先を一人の女の子に向けていた。少女は震える手に小さなナイフを構え、ミシロに立ち向かおうとしている。


「勇者の娘…アンナリーゼ…」


次回、ミシロ最大の苦悩

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