・別れ
外にいるスヴァローグ達の表情を見て火花達はすぐに別れの時がきたことを感じた。姿は透けており希薄になっている。
「みんな……お別れなんだね。スヴァローグ、ペルーン、クラミツハ。」
ー本来ならもっと早くこの命は消えているはずだった。あの焼き尽くした街で…たった一人で……感謝しているぞー
ーこうして仲間と共に消えることができる。それだけでも幸せだー
ーワシはずっと隠れて見ていたがな。存外楽しめた。ー
「ウィンディーネ、短い付き合いになっちゃったわね」
ーそうね。でもロード、貴女が敵をバッサリと切り裂くのはとても気持ちよかったわ。ありがとう。-
「アマテラス、お前のおかげで初めて空を飛んだぜ。良い眺めだった。それに、火花のあねさんを助けてくれてありがとよ」
ーこちらこそ!それに、あたしはおねえちゃん達と一緒に眠ることができるんだもの。幸せだよー
「アウラ、今更ですけど脅してしまってごめんなさい。」
ーほんと、伝説の竜であるわたくしにぶっ飛ばすなんで言ったエルフは貴女だけですわ。私の生きた証である力、しっかり使ってくださいませ?-
朝日が昇ってきた。私は涙が止まらなかった。私が戦う時、そして倒れた時も、心が挫けた時も、いつでもそばにいて勇気づけてくれた竜達と別れたくなかった。他のみんなもぼろぼろに泣いていた。
ー我が名はスヴァローグ。我らはいつでも主らを見守っている。-
ー我が名はペルーン。たとえ我らの声が聞こえずー
ーウィンディーネ、ここに。たとえあなた達の声が届かなくてもー
ーわたくしはアウラ。この思い、そして受け継がれた力がー
ーあたしアマテラス!ずっとずーっとみんなを照らすよ!-
ーワシはクラミツハ。ワシらがいつでもそばにいることを心得よ!復讐の果て、見届けるがよいわ!-
竜達は私達に抱きしめられながら日の光と共に消えていった。
「みんなっ、ありがとう!!」
私達の中から、竜の存在が消えていった。そこには力だけが確かに残っている。
「この思い、力、無駄にはしない!みんな!まずはモビィディックと合流しよう!」
港に戻ると、町は武装した異種族達であふれかえっていた。町に入ったところでモビィディックを任せていたマーメイド族のフェイさんが走ってきた。
「火花様!お久しぶりです!あれ、火花様…ですよね?姿が変わりましたね?」
「うん、次の私なんだ。」
「は、はぁ…。あ!あの天使の破壊遠目からですが見えましたよ!やりましたね!」
「一発ぶん殴っといたから!それで、成果は?」
「私達はできる限りの異種族達を集めてきました!でも、いくつかは回れず、あとは諦めて自死を選んでいた者達も…」
「そう…。辛い想いさせちゃったね。ごめんね。」
「いいえ、全ては人間が悪いのですから。」
「うん、やり返そう!それにこの大軍なら王都の軍隊とも渡り合えるわね!」
「久しぶりね?ヒバナ?」
そこに現れたのはレジィナさんだった。なぜかその目はとても哀しそうに私を見ている。
「レジィナさん!久しぶりです!」
「随分と…変わったのね」
「はい。成すべきことのために。あの、ルプーアさんは?」
「彼なら物資の調達や配給に回ってるわ。戦いよりも、そういうのが得意だから。」
「あの……戦うの嫌、でしたよね?」
「ええ。違うわけではないわ。見届けるためにきたの。それよりも私が悲しいのは…」
レジィナさんに急に抱きしめられ、私はその豊満な胸に顔を包まれた。
「貴女が前よりも辛そうに見えることよ…。」
「ぐ…くるしっ。ぷはっ!大丈夫、じゃないですけど。さっきも竜達と別れてきたんです。でも天使を破壊できてよかった。あれが落ちたらみんなが住む世界が無くなるところだったから」
ちょっとだけ、久しぶりの人肌のぬくもりを味わおうと思っていたところに、警戒のため上空に飛んでいたティガの叫び声が響いた。
「あねさーん!王都の方向が光ってやがる!来てくれ!」
「えー、もうちょっとこうしてたかった。レジィナさん、ちょっと行ってくるね!フェイさんは全員を集めてて!」
火花が黒い翼で飛び上がると、レジィナは目を細めた。
「ミシロちゃん。ヒバナ、変わったわね。」
「はい。たぶん、悪い意味で変わったことが大きいです。」
「おっひさしぶりですレジィナさん!私ですミャノンです!あのあの私も傷ついているので抱きしめてください!」
「ちょ、ちょっと!?」
ロードは荊でミャノンを締め上げた。
「やめなさい」
「ふぁっは!?痛い!棘(とげ)が痛い!でもなんか目覚めそうです!」
ミャノンは魔族の茨に縛られ、転がされた。
「あねさん!あっちの方向だ。ほら、光ってやがる。」
ティガの指さす方向は確かに光っており、少しずつだが輝きを増している。
「まさか、ブルーサファイアへの転移魔法が!?」
「だとしたらまずいぜ。あねさんの故郷に王都軍が攻め込んじまうぞ!」
「すぐに向かおう。戦闘準備を整えて、ね。」
王都の方向から恐ろしい力を持った何かが向かってきていることを感じた。おそらく黒い私が言っていたこの世界にいる最後のもう一人の私か殺し損ねた勇者だ。
次回、異種族VS人類、開戦
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