第30話「鉄槌を食らわせろ」

 

 アリアとの激戦後、しばらく火花は一人ですすり泣いていた。ミシロ達はどう声をかけていいかわからずにただ見つめていたが、すすり泣く声が聞こえなくなると火花が立ち上がった。


「……ふふ、お待たせ。さ、やろうか。天使ぶっころ作戦。」


 声のトーンも落ち、後悔している。その様子を見てミャノンが静かに声をかけた。


「ご主人様……」


「あぁ、ミャノン…だよね?イケメンになっちゃって。あのさ、メタトロンに連絡繋がる?」


「は、はい。先ほどようやく繋げ方がわかりまして。メタトロン様~」


 彼の鎧から声が響いてきた。いやめっちゃ地味だな。


 ーはぁい。火花、いよいよね?ー


「うん。その前に、別世界の私がいること黙ってたでしょ。それにこの世界に飛ばされる時に私の記憶いじったよね?そのツケは今度まとめて全部払ってもらうから。まずはあの天使をぶっ壊さなきゃ。」


 ーごめんなさい。色々都合があってね。さぁ、竜の力をー


「ふ~ん、そっか。神様達ってそういう奴らなんだね。さて、さっさとすませちゃおう。みんな、出てきて。」


 全部の竜が集まった瞬間、私はこの力の使い方を感じた。


「ミシロ、ロード、ティガ、ついでにミャノン。全員ダークルージュに手をかざして。」


「は、はい!」


 炎、雷、水、風、光、闇がダークルージュに取り込まれていく。その力はダークルージュを身の丈を優に超える巨大な剣へと変形させた。剣からの光が5人を包み込むと虹色に輝く鎧が装着された。そこには同じく虹色に輝く翼が生える。


「わぁ…綺麗です…」


「まるでドレスみたいね」


「あねさん!天使に一発、やってやろうぜ!」


 だけど一人ゲテモノがいた。


「私性別はないですが、容姿が男なので変です!何かに目覚めそうです!」


「行こう!フッ!」


 5人は一気に砂漠から飛び上がり、さっき戦っていた場所である天使に向っていく。すると敵意を感じたのか天使の体からチェーンソーを持った天使の人形が生み出され、落下してくる。モビィディックで襲ってきた人形と同じ気配がしていた。


「あの時のっ!?お前が原因か!邪魔するな!」


「火花様!皆!ここは私に任せてちょうだい!」


 ロードが虹色に輝くアクアスラッシュで人形達を切り崩していく。しかし天使は更に黒いうねうねした敵を投入してきた。


「あれは、マリアブルを襲っていた奴らです!ここは私達に!」


「私もご一緒しますよ!ご主人様は先に!」


「あねさん!一気に飛ばすぜ!」


 ミシロが残像を作りながら雷の矢を放ち、ミャノンが光の剣で切り裂いていく。そしてティガが火花の足を蹴り上げ加速させる。それをフォローするように現れた虹色に輝くチェルノボウグ不死隊達が雑魚を串刺していく。体力の限界があったミシロは今は余裕に戦えていた。


 天使の胸にある赤い宝玉のような水晶から熱光線が発射され、巨大なダークルージュとぶつかり合う。力は拮抗し、衝撃が大陸に響いた。


 ーなぜ抗う?決められた理に逆らっても意味はない。滅びは対等にやってくる。先程お前が我が背中で殺した者のようになー


 初めて審判の天使が口を開いた。その無表情からおぞましい声が天から響き渡る。


「そう!必ず形あるものはいつか滅びる!悪を成したやつらは特にそれが早い!だからこの世界の人間は私が滅ぼす!お前は全てを滅ぼしてしまう!」


 ー愚かな生物め。勝てると思うなー


 光線が更に強力になり、私の力だけでは押し切れない。押し負けるっ!


「くぅっ!」


「火花様!」「一緒にいくわよ!」「あねさん!」「ご主人様!」


 戦っていた全員が合流し。その力で熱光線が弾かれ、審判の天使が無防備になった。今の今まで表情を崩さない石作のような顔が恐怖に歪んでいる。


 その巨大な瞳に映るのは、天使を討とうと怒りの刃を叩き付けてくる魔王であった。


 ーまさか、理の存在である私が!私がああああ!ー


 私はフェンリルの力を更に込めて、大きく振りかぶった。


「この世から消え去れええええ!!」


 私の叫びに呼応されたかのようにダークルージュが更に巨大化し、審判の天使を超える。私は一気にダークルージュを審判の天使の頭に振り下ろした。


「「「「「うぉおおおおりゃああああ!」」」」」


 全員がダークルージュを持つ火花の手を押し込み、天使を切り裂いた。真っ二つになったその巨体は空でボロボロと崩れ落ちていき、半分は海の藻屑に、半分は砂漠の塵と化した。


 光に包まれた空の中で、火花の精神世界に審判の天使が取り込まれた。


 ーこ、ここは?ー


「ずいぶんと小さくなったね天使さん。さてどこのくそったれな神様が貴女を作り出したの?」


 火花はこの審判の天使が神が作り出した存在であることに気づいた。神が作った物でなければ、メタトロンが対処法や存在を知っているはずがないからであった。


 ー私は、私はミカエル様からこの命を受けたのです。この世界を終わらせることが、宿命と。-


「ミカエル、ね。わかった。覚えたよ。じゃあ、アハッ!貴女もらうねっ!」


 私はクラミツハの闇で審判の天使を足元から飲み込んでいく。


 ー貴女!?まさか私を!?ー


「ふふふ、神様の力ってどんなものかなぁ?あの熱光線かなぁ?」


 ーちょっと!聞いているの!?やめて!助けて!ミカエル様ぁ!-


 私はすでに首元まで飲み込まれた審判の天使の前にしゃがんで笑顔で応えてあげた。


「貴女の力はちゃんと人間殲滅に使ってあげるからねぇ?大丈夫よぉ?」


 一発顔をぶん殴り、ティガ達との約束は果たした。


 ー嫌っ!いやあああ!しにたく…な…ー


「げふっ。はぁ~……まっず。ぺっ!さて、かーえろっと」


 私が精神世界から出ると、外ではスヴァローグ達が具現化していた。彼女たちの表情で、私は何が起きるのか察した。そして、どうすればいいのかも分かっている。


 次回、竜たちとの別れ。あぁ、嫌だ。

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