第1話 剣神
俺たちが湧き水を生活用水として使い始めて一週間。最近、かなり体調がいい。
しかも力が付いたようで、農作業が早く終わるようになった。
アイナも大分手際が良くなった気がする。
「おーいアイナ、行くぞー」
「はーい!」
俺たちはいつも通り家を出た。
そして畑に向かって歩いていく。
しばらく歩いていると、冒険者ギルドの前にいる一人の男性が目にとまった。
「なあアイナ。あの人って……」
赤髪で、軽装。そして中性的な顔立ち。
そして俺たちとあまり歳が離れていないように見える。それなのにどこか歴戦を思わせるような気配。
そしてなにより一番目立っていたのは、彼の持っている剣。まるで燃えているかのような赤色の刀身。そしてそれを際立たせる黒色の持ち手。
こんな容姿をしている人を、俺は一人しか知らない。
──剣神セキだ。
この世界で唯一の剣神であり、
所持する剣──『
また冒険者をしており、功績を認められ二つ名、『剣神』をつけられたそう。
しかも一人でSランク冒険者と認められている正真正銘世界最強の男だ。
そんな人がなぜこんな所に--?
「……間違いない。剣神セキだね」
「やっぱりアイナもそう思うか?」
「うん。だってあんな剣を持っているのは彼くらいだもん」
俺たちが歩みを止めて話していると、セキがこちらを向いた。
そして彼と目が合った者は足がすくんで動けない──はずなんだけど……余裕で動ける。
それどころか威圧感がしない。
アイナが気になったので横を見てみるが、彼女も俺と同様になんともないようだ。
そして俺たちが動じないのを見て不思議に思ったらしく、セキがこちらにつかつかと歩み寄ってくる。
「……なあ」
「はい」
「ボクが怖くないのか……?」
「は、はい……」
「私も同じく……」
俺たちがセキの質問にそう答えると、少しの沈黙の後、彼はガックリと項垂れた。
「そうなのか……」
彼のその言葉に疑問を感じたので、質問をしてみる。
「どうしたんですか?」
怒るかな、と思ったのだが、彼は意外にも話してくれた。
「ボクはセキ。一応『剣神』と呼ばれている……まあ知ってるか。とりあえず、僕はこの顔だから色々な人に絡まれるわけよ」
そう言うと彼は野太い声を出して誰かの真似を始めた。
「『はっ!お前が噂の剣神様ってかぁ!?笑わせやがって!ぎゃははははははっ!!!』
とか言われるんだよね」
なるほど。つまりトラブルに巻き込まれやすいという事か。
声真似上手いな──誰の真似かは知らないけど。
「それで、トラブルに巻き込まれるのが嫌だから威圧を与えて黙らせるんですね」
「そういうことになるね」
俺が結論を代弁すると、セキは満足そうに頷いた。
「わかって貰えたようでよかった。ボクも好きでやってるんじゃないんだよね……」
そう言うと彼はしゅんと項垂れてしまった。
語尾も弱くなっていたし、本当にそんなことはしたくないのだろう。
「分かりました。わざわざ教えて頂き、ありがとうございました!」
「あ、ありがとうございましたっ!!」
俺たちがそう言って頭を下げると、セキはいいよいいよ。と言って頭を上げるよう促してくれた。
「あ、君たちの名前は?」
彼がそう聞いてきたので、やっと思い出した。そうだ。相手は名乗ってくれたのに、俺たちは名乗るのを忘れていた。
「俺はハルトです」
「わ、私はアイナです」
「ありがとうハルトとアイナかぁ……よし!覚えた!ボクは暫くここの村にいるから。何かあったら頼ってね」
そう言うと彼はギルドの中へと踵を返した。
「案外いい人だったね……」
「……ああ。まさかあんな人だったとは」
あれ?そう言えば何か聞くことがあったような気がするが……まあいいか。
それに、人って見た目に寄らないという事を改めて実感した。
「よし!気を取り直して!畑に行くぞーっ!」
「おーっ!」
俺たちはようやく畑に向かったのだった。
◆
【セキ視点】
私の名前はメルフィ・セキストーン
一般には『剣神セキ』で通している。
だって『剣神』が女性だってバレたら大騒ぎになるらしいしね。なんでかは知らないけど。
ところで、今、私はガイール村というところにきている。
一応ここには冒険者ギルドもあったし、宿もあった。他の村に比べれば設備が整っている。そんな村で、今大変なことがおきている
そうだ。
私はガイール村のギルドマスターとの話がひと段落着いたところで、外に出てみた。
外に出て伸びをしていると、視線を感じた。
私がいつも通り殺気を送ってみるも、相手が逃げ出しそうな素振りがない。
しかも相手のうち一人は私と同じ女性だった。
なぜ殺気を受けて動じないのか気になったので、話を聞くことにした。
「……なあ」
「はい」
「ボクが怖くないのか……?」
「は、はい……」
「私も同じく……」
私は驚愕した。腐っても剣神である私の殺気を受けて、平然としているとは……
この二人は何かがある。そう思った私は、少年──といっても私と変わらないように見えるが──の質問に答えた。
そうすると少年は察しが良いらしく、私が話す前に自ら結論を導き出していた。
そして最後に二人の名前を聞いておいた。
ハルトとアイナだそうだ。
私は極力誰とも話さないようにしているのだが、彼らとはまた何かがあるような気がしたのだ。
「ハルトにアイナ、またどこかで会えるかな……」
私はギルドに戻った後、気がついたら小さな声でそう呟いていた。
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