家のリビングに神聖水が湧いた。〜ただの水だと思って常用していたらいつの間にか世界最強になってました〜
卯月 為夜
第1章 神聖水は生活用水
第0話 水が湧いた。飲み水にした。
俺はハルト。役人でもなく、騎士でもない、ただの農民だ。
先月成人の儀を終えたばかりでまだまだヒヨっ子だがな。
俺は両親が役人になれだの騎士になれだのあまりにもしつこく言ってきたので、家を飛び出して辺境の村、ガイールに越してきた。
そこで農民として、平凡に暮らしている。これが今までの人生で一番の幸せなのだ。
今日も農作業をしている。
気がつけばもう辺りは夕日がさしてきており、他の畑の人達は帰路に立ち始めていた。
「……ふう。もうこんな時間か、アイナ!帰るぞ!」
「うん!」
こいつはアイナ。二週間ほど前、俺が畑に向かって歩いている途中、道で倒れていたのを見つけた。今は俺が保護し、農作業を手伝ってもらっている。
何でも、彼女も家を飛び出して来たらしく、話を聞いていると親近感が湧いたのだ。
まあ彼女は金を持ってくるのを忘れたようで、二週間飲まず食わずだったそうだ。
よく辿り着いたな、と言うと、
「気合いで乗り切りました」とか言っていた。俺はその言葉にとても驚いたのを覚えている。
歳も近いので遠慮もいらないし(風呂とかはべつだぞ?)、最近になるとタメ口で話すようになった。
俺たちは畑に魔物避けの布をくくりつけ、
農具を担いで家に帰った。
◆
「「ただいまー」」
俺たちは扉を開け、家に入った。
ごく当たり前の農民の家とは違って、
少し広く、綺麗な家になっている。
ここに来た時に村長に事情を話したら元の値段の半分ほどで売ってくれた。
しかしそれで俺の金も
……やっぱり少し後悔している。
あ、食事はアイナが作ってくれる。
これがまた美味しくて、都会にいた頃よりも充実している気がする。
今日の献立は山菜のスープとガルゴ肉のステーキだ。
都会で買うと銀貨2枚(銅貨一枚は千円なので、二万円)は下らないガルゴ肉が、ここでは銅貨2枚(二千円)で買える。
しかも都会のものより肉厚で、脂も重すぎずサラッと流れていく。
やっぱりここに来て良かった。
「ご馳走様でした!」
俺が両手を合わせながらそう言うと、アイナは嬉しそうに笑った。
そして少しの時間を空け、アイナも食べ終わった。
「ご馳走様でした!」
アイナも手を合わせながらそう言うと、
今度は満足そうに笑った。
食器の後片付けは俺の担当だ。
俺は食器を運び、中級水魔法で汚れを洗い流す。
「
俺がそう唱えると、右手に小さな水の渦巻きができる。それを食器に当てることで綺麗さっぱりに汚れが落ちる。
それを何度も繰り返し、ついに食器が最後の一枚になった。
「
俺が
ゴゴゴゴゴ……
耳を研ぎ澄まし、感覚を鋭くする。
すると、音のする場所を見つけた。
アイナのいる、リビングの下だ。
俺は少し、嫌な予感がした。
「……!!アイナ!そこから離れろ!」
「え……?う、うん!!」
俺が忠告した瞬間、アイナはサッと飛び退く。アイナが飛び退いたその時--
『ザバァァァァン!!!』
リビングの下から、大量にナニカが噴き出してきた。
それは透明で、よく使っている液体──
そう、水だ。水がリビングの下から噴き出したのだ。
当然、俺たちは混乱していた。
特にアイナが。
「どどどどどうしよう……!水が湧いてきた……ざばぁんって……」
「ど、どういうことだ……?」
「ととととととりあえず!この水が飲めるのか確かめてみたい……!」
アイナがそう言って両手をカップのようにし、水を少し飲んだ。
「……お」
「お?」
「お、おいしい!!美味しすぎるよこの水!!飲んでみてよ!!」
アイナにそう言われて俺も一口飲んでみた。
ずっと地下にあったからかよく冷えており、口に含むとほんのりと甘味を感じる。
そして心なしか体が軽くなった気がする。
今ジャンプしたらそのまま飛んでいけそうな程に。
「……たしかにうまいな」
「でしょ!?ねえ!これを飲み水にしない?いっその事私、ご飯やめて三食これでもいい!!」
「……三食これはやめてくれ。でもこれを飲み水にするのはいいと思う。わざわざ井戸まで汲みに行くのも大変だしな」
俺がそう言うとアイナはパァァという音が聞こえそうなほど顔が明るくなった。
「やったぁ!!」
そう言ったアイナの顔は、輝いて見えた。
こうして、俺たちの飲み水が井戸水から湧き水に変わった。
──しかし、俺は知らなかった。この水がどんな怪我、病気でも治し、少し飲むだけでとてつもない力を得ることができる伝説の神聖水だということを……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます